開催報告(第6回)

ゲノムに遺された遠い祖先の足跡

講師 : 間野 修平
日時 : 2006年11月17日
会場 : 7th Cafe (中区栄)

第6回サイエンスカフェは、11月17日(金)、中区栄のナディアパーク7階の7th Cafe(セブンスカフェ)で開催されました。テーマは「ゲノムに遺された遠い祖先の足跡」と題して、システム自然科学研究科助教授の間野修平氏が担当しました。

ヒトの進化や日本人のルーツを探る興味深い内容で、最新のゲノム研究に基づく結果に参加者も熱心に聞き入っていました。講義は昨年万博で展示されていたルーシーと名づけられたアウストラロピテクスの化石の話題にも触れながら、化石研究から分かっているヒトの進化の説明から始まりました。そして、ヒトの進化を探る上でヒトゲノムに刻まれた情報に遠い祖先を探る重要な手がかりがあることを説明されました。

遺伝の仕組みに初めて科学的なメスを入れたのはメンデルですが、粒子的なものが親から子へ伝わっていくというモデルを考えたメンデルの先見の明の素晴らしさ、22対の常染色体とX、Yの性染色体からなるヒトの染色体、DNAの構造などについて丁寧な説明がされました。現代人のミトコンドリア遺伝子が20万年ほど前のある1人の女性のミトコンドリアを共通祖先に持つという1987年に発表されたミトコンドリア・イヴ説は現生人類のアフリカ単一起源説を強く支持する発見ですが、遺伝子ごとにそれぞれ共通祖先があること、遺伝子のDNA塩基配列の多様性から共通祖先までの時間が計算できることなどが説明されました。

ヒトとチンパンジー間ではゲノムのDNA塩基配列に1.2%ほどの違いがありますが、これからヒトとチンパンジーの分岐年代が約600万年と計算できること、2人のヒトの間では約1000塩基に1ヶ所の違いという事実から現生人類は最初1万人程度の小さな祖先集団からスタートしたと考えられることなどゲノム解析から明らかになってきた興味深い事実を解説されました。Y染色体はミトコンドリアと同様に組み換えを起こさず父親から男の子へと伝えられていくことから、男系の系図を探る上で重要な材料となります。ヒトのゲノム中に50万以上ものコピーを持つAluと呼ばれる挿入配列がありますが、YAPと呼ばれるAlu配列の一種がY染色体の中に持つヒトと無いヒトがあります。また、アルデヒド分解酵素(ALDH2)遺伝子においてモンゴロイドの祖先で突然変異を生じ、アジア人には酒に弱い人がいることなど様々な遺伝子の多様性から祖先の系図を推定できることを具体的な塩基配列の違いなどを示しながら解説されました。STRと呼ばれる数塩基の繰り返し配列の多様性を使った短い時間スケールの系図の研究について説明され、YAP配列の有無は地理的分布の違いがあり、弥生人の日本への移入の痕跡を残していることなど、日本人の起源について興味深い話がありました。

最後に今年夏、間野氏が行かれたモンゴル人の遺伝子サンプル調査と、それに基づくモンゴルの各民族の違い、モンゴル人の多くが持っているY染色体が1000年ほど前に共通祖先を持ち、それをチンギスハーンが持っていたと考えられることなど現地での写真を交えながら話され、遺伝学の基礎から最新のゲノム研究まで、興味深い話に引き込まれた2時間でした。

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