開催報告(第7回)

水で湿らせると髪の寝癖が直るわけ

講師 : 森山 昭彦
日時 : 2006年12月16日
会場 : カフェ憩 (港区十一屋)

第7回サイエンスカフェは、12月16日(土)午後2時〜4時、「カフェ憩」名古屋ライトハウス明和寮(社会就労センター)2階慈光館で開催されました。テーマは「水で湿らせると髪の寝癖が直るわけ」と題して、システム自然科学研究科教授の森山昭彦氏が担当しました。

今回の会場は、100人収容できる明和寮の多目的室で行われ、障害者のためのボランティアの方々を含め70人近い聴衆で賑わいました。会場のスペースを生かして、いくつものデモ実験が行われ、聴衆を沸かせました。話題は多岐にわたり、「食塩の塊はなぜ容易に水に溶けるか」、「水分子の極性や界面活性剤(石鹸)の性質」、「コラーゲンやハンドクリームの保水性」、「牛乳が固まるわけ、豆腐の分子間架橋」、「綿の吸水性、紙おむつの吸水力」、「ヤモリは垂直の壁から落ちないわけ」、「切手糊や洗濯糊」から「髪の毛の寝癖」の話題まで、われわれが日常生活で体験する様々な物質の不思議な性質が、分子の内部や分子の間に潜んでいる「弱い力」の働きによって支配されていること等々が分かりやすく解説されました。

原子や分子の相互作用に働く力をまとめると、1)食塩ではナトリウムと塩素がイオン結合(クーロン力)で引き合っている、2)水の分子は分子内に電子の偏りが生じているために水素結合がおこり、隣同士の分子が次々と引き合うので、粘性があり沸点が高いという水分子の特徴が現れる、3)ポリエチレンフィルムを引っ張ると細長く伸びて元に戻らない性質は分子間に働くファンデルワールス力である、4)水と油が混ざりにくいのは親水性と疎水性の相互作用、などに類別される。

親水性と疎水性に関しては、各テーブルで参加者が実演を行いました。水と油(ベンゼン)の境目に、片面を鉛筆で塗りつぶした紙切れを浮かべると、黒い面(鉛筆=炭素=疎水性)が必ず上(油の方)を向くことを確かめ、疎水性の黒い面は、疎水同士が引き合うために油の方を、親水性(セルロース)の白い面は親水性同士が引き合うために水の方(下)を向くことに納得しました。

また、ヤモリが何故ガラスや天井に張り付いていられるかといった素朴な疑問にも、足裏の無数の毛先と壁面との間のファンデルワールス力が貢献していることが説明され、「なるほど」と納得させられました。最後にタンパク質化学を専門とする立場から、ケラチンタンパクを主成分とする髪の性質が説明され、寝癖の原因がケラチン分子間の水素結合のためであり、水や温湯で湿らすとケラチン分子間の水素結合が切れるため、寝癖が直ることが解説されました。

お話の初めには、コップ内の水の色が水素イオン濃度(pH)などの仕掛けによって自在に変化する“サイエンスマジック”や、水流が下敷きの静電気に吸い寄せられる実験などが披露され、会場を沸かせました。

今回のサイエンスカフェは、広いスペースを生かして実験を組み込んだ初めての試みで、多彩な演題に「驚いたり」「考えたり」している間に、2時間が過ぎてしまいました。日常現象の仕組みを化学で考えてみる良い動機付けとなりました。

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