開催報告(第11回)

知っているようで意外と知らない
植物のバイオテクノロジー

講師 : 湯川 泰
日時 : 2007年5月18日
会場 : きまぐれ茶房 (瑞穂区豊岡通)

第11回サイエンスカフェは、5月18日(金)に瑞穂区のきまぐれ茶房で開催されました。「知っているようで意外と知らない植物のバイオテクノロジー」というタイトルで、植物分子生物学が専門の湯川泰准教授が遺伝子工学の基礎から遺伝子組換え植物までの話題を提供されました。遺伝子組換え食品など一般の方にとって関心が高い身近なテーマであったこともあり、非常に多くの参加者で満席でした。

最初に、遺伝子組換え食品について質問すると、やはり予想通り「何となく怖い」「できれば食べたくない」といった抵抗感や、食の安全に対する不安を感じる参加者が多いようでした。では、遺伝子組換え植物とはいったいどういうものでしょうか?

湯川先生は、まずDNA上の遺伝子からRNA、続いてタンパク質が作られる様子や、どうやって遺伝子を「切り貼り」するのかなど、遺伝子工学の基本的な話を分子レベルでの「のり」と「はさみ」の例えで説明されました。綺麗なスライドとCGを使って視覚的に解説されたため、一般の参加者にもイメージしやすかったようでした。

次に、近年話題になった青いバラを例にとって、アグロバクテリウムを用いた植物の形質転換法などについて説明し、実際にどのようにして遺伝子組換え植物を作成するのか、従来の掛け合わせによる育種との違いについて原理を含めて話されました。耐虫性、耐除草剤性、耐病性植物等の生産者にとって有益となる第一世代から、質を向上させた消費者にとっても有益となる第二世代の遺伝子組換え植物まで、遺伝子組換え植物の実例を挙げ、メカニズムを含め論理的に話は進んでいきます。

さらに、「虫も食べないものを人が食べても大丈夫なのか?」「普段私たちが食べているものに毒はないのか?」といった率直な疑問から、環境への影響や生物多様性の問題、食糧問題、エネルギー問題まで地球規模で考えなければいけない話題まで繰り広げられました。途中、何度か質問タイムがあり、参加者からもいろいろな意見が出され議論が拡がっていきました。遺伝子組換え植物の是非については、私たち自身の普段の食生活のレベルから地球規模のマクロ的な視点や経済、政治的な問題が複雑に絡み合っていて、なかなか難しい問題ですが、植物分子生物学を専門にする湯川先生ならではの視点からサイエンスカフェらしい自由な議論が進みました。終盤には、昨今のマスコミの情報に振り回される件について、もっと科学者・研究者が正しい情報発信をすべきだという厳しい意見も出されました。

冒頭に、湯川先生はDNA二重らせんモデル発見の一人で遺伝子発現のセントラルドグマを提唱したクリック博士が幼い時、自分が大きくなる頃には解くべき事がなくなってしまうのではないかと心配して大泣きしたときに、お母さんが「分からないことは残っているから大丈夫」と言って慰めたというエピソードを紹介されました。バイオテクノロジー隆盛の現在においても、まだまだ私たちが知り得ない生命の不思議さ巧妙さがあります。遺伝子組換え技術も含めて謙虚な姿勢で科学者は臨むべきでしょう。同時に、これからは社会に対する説明責任がますます重要になるはずです。100%安全、100%悪、といった極端に単純な「分かり易い」結論だけを鵜呑みにするのではなく、正しい知識に基づいて自ら考えることが重要です、というメッセージが参加された方に充分伝わったのではないでしょうか。

また、当日は東海ラジオの佐藤友香アナウンサーが取材にきてくださいました。その模様は、5月30日(水)朝8時10分頃から東海ラジオ(1332kHz)の番組『モーニングあいランド』の「こちらトクダネ情報部」というコーナーで紹介されます。

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