開催報告(第12回)

人間 vs コンピュータ! どちらが賢い?

講師 : 渡邊 裕司
日時 : 2007年6月15日
会場 : 喫茶スルー (東区代官町)

名市大大学院システム自然科学研究科のサイエンスカフェ in 名古屋も、早いもので始めて1年が経ちました。その区切りとなる第12回は6月15日(金)午後6時より東区の「喫茶スルー」で開催しました。今回の講師の渡邊裕司准教授は専門が知能情報学です。「人間 vs コンピュータ! どちらが賢い?」というタイトルで、人工知能(Artificial Intelligence, AI)の歴史、基礎的な考え方やアルゴリズムと、それを使ってどのようにパズルを解くかという話を、満員の参加者とされました。

堅苦しい話は疲れていないうちにした方がよいとのことで、まず人工知能研究の歴史と困難について話が始まりました。タイトルどおり、人間とコンピューターはどちらが賢いかという質問には、会場の全員が人間と答えました。それはそのとおりで、当初、人間のような知能(強いAI)を目指して始まった人工知能の研究も、今では、人間の知能の一部と同じようなことを機械にさせようとする(弱いAI)だけの研究に、多くはなってしまっているそうです。

人間のような知能(強いAI)を作るには、それができたかどうか、どう判定するかが問題になりますが、アラン・チューリングという人が昔提案した、チューリングテストという判定法が紹介されました。これは人間の判定者が、別室の対象(人間か機械)とコンピューター端末を通したチャット形式で会話をし、人間と機械を区別できないほどであれば、その機械が十分知的であると判定するという方法です。この判定法の妥当性については、哲学者のサールから反論もあるそうですが、それに対する反論もあり、平行線の議論が続いているということでした。強いAIを目指す上での困難として、他にも古典的な問題として、今からしようとしていることに関係のあることだけを選び出すことが実は非常に難しいという、フレーム問題も紹介されました。

堅苦しい話にもかかわらず活発な議論になり、少し疲れたところで、話題は現在の研究により近い、弱いAIはどんなものかという話になりました。人間の知能の一部を模倣する一つの例として、パズルを解くことがありますが、渡邊先生は近年流行の数独と、世界チャンピオンをコンピュータが破ったこともあるチェスの話題で、これを解説されました。

数独の歴史やルールと、基本的な解き方を説明した後、人工知能でこれを解くためにはどうするかという話に入ります。まず問題を定式化する必要があります。ハノイの塔という簡単な問題を例に、問題を状態、オペレータ、目標検査、経路コストなどの構成要素に分解して定式化する方法を説明されました。次に、そうして定式化された問題の解を探索する基本的な方法である、深さ優先探索と幅優先探索を説明されました。

さらに、より複雑なゲームの例として、日本の将棋があります。コンピューター将棋は人工知能研究の一分野としても1980年代から研究されていますが、50年代から研究されているチェスに比べると後発で、また持ち駒がある分難しいので、プロ棋士に勝つほどにはなっていません。それでも最近では、日本将棋連盟がプロ棋士とコンピューター将棋との無許可での対局を禁止するほど、実力が上がってきているそうです。渡邊先生は将棋を例に、より高度な手法であるMin-Max探索法や、ゲーム木の枝刈り(アルファ・ベータ法)を解説されました。

全体を通して、食べ放題のケーキを食べたり、例として出された問題を参加者が解いたりの、リラックスした雰囲気の中で、難しいアルゴリズムに首を捻り、深遠な哲学問題に思いを馳せた夕べでした。

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