開催報告(第13回)

分子で探る生物進化

講師 : 能登原 盛弘
日時 : 2007年7月20日
会場 : カメヤ (南区松池町)

第13回サイエンスカフェは、7月21日(金)、南区のカメヤで開催されました。「分子で探る生物進化」というタイトルで、能登原教授が担当されました。

食べ物の好み、血液型や体形といった身近な遺伝現象の話題から始まり、38億年に及ぶ生物進化の概略が説明されました。カンブリア期以降生物は殻をもったので多くの化石が残ったそうですが、それ以前にも生物はいて、その頃の生き残りのウミエラという生物が海底に生えているそうです。

DNAの構造、遺伝子の発現、突然変異のしくみなどについて説明され、ABO血液型の分子レベルのしくみが説明されました。ヘモグロビンはアルファグロビンとベータグロビンから構成され、それらの遺伝子は6〜8億年前から存在し、ひとつの遺伝子が重複したもので、多くの生物種がもっているそうです。そこで、種の間で分岐年代とアミノ酸が異なる割合を比較することで、タンパクが変化する速さが推定でき、それはほぼ一定なのだそうです。さらに、ミトコンドリアの系図を推定することで、現生人類が多地域で独立に進化したか、アフリカで進化して地球上に拡散したか、という論争が後者で決着しつつあることなどが紹介されました。これらの推定の基となる系統樹の作成法などの数学的理論を簡潔に説明されました。

その他、視覚を担うロドプシンというタンパクの系統樹から視覚の進化がわかり、人は赤と緑の遺伝子をX染色体にもっており、そこで生じる不等交叉という現象のため、男性には赤と緑が区別できない人がいることが説明されました。視覚は生物進化にとって非常に重要だそうで、カンブリア期の生物は既に目をもっているものが多く、生物が目のシステムを獲得するのには数百万年しかかからなかったと考えられているそうです。また、嗅覚の遺伝子は多数あり、視覚が発達した生物の嗅覚の遺伝子には突然変異で機能を失ったものが多く、視覚が嗅覚にとってかわったと考えられるそうです。

最後に、地球全体のスライドを示され、いろいろな生物がどこで生じたかを説明され、地球温暖化のために数十年のうちに北極の氷が溶けるともいわれているけれども、ホモサピエンス「知恵のあるヒト」が「愚かなヒト」にならないようにしなければならないというお話で締め括られました。

身近な遺伝から38億年に及ぶ生物進化まで、分子レベルから地球レベルまで、圧倒的なスケールのお話に惹きつけられた2時間でした。

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