開催報告(第14回)

日本も肥満戦争に突入

講師 : 堀江 祥允
日時 : 2007年8月10日
会場 : café SIMON (昭和区長戸町)

第14回サイエンスカフェは、8月10日(金)、昭和区のcafé SIMONにて開催され、栄養学が専門の堀江祥允名誉教授が担当されました。

まず最初に、肥満や栄養状態の程度を表す尺度の説明がありました。Broca index(ブローカ指数):(身長cm−90)x 0.9、kaup index(カウプ指数):体重kg/(身長m)2、Rohrer index(ローレル指数):体重kg/(身長m)3などが一般的に用いられますが、現在は体脂肪量と相関度の高い、kaup indexと同じBMI(Body Mass Index)という、体重を身長の二乗で除した値が最も普通に用いられているとのことでした。このBMIですが、肥満度区分は国により違いがあるそうです。厚生労働省による日本の国民健康栄養調査ではBMI≧25を「肥満」としていますが、25〜30の間や30以上の値をカットオフポイントとしている国もあるようです。この肥満にあたる人口がどのような年齢層分布を示し、またその分布が年度とともにどのように変化してきたかが、日本と欧米諸外国との比較で紹介されました。

1970、1975、1982、1997年の比較では、明らかに肥満傾向の児童が増加しており、男児では6歳で5%、9歳以上では10%以上の児童が肥満傾向にあるといいます。また、女児も6歳で5%を越え、10歳で9%以上に達するという驚くべき統計が紹介されました。さらに成人では、30歳代で20%を越え、2002年のデータでは、30歳から69歳までの広い年齢層で肥満者(BMI≧25)が30%に達しています。ところが女性の場合、男性とは異なるところがあるようです。30歳代までは15%以下に留まりますが、40歳代から20%に達し、50〜70歳までで30%に達します。興味深いのは女性の場合、30〜59歳の間は、1982、1992、2002年と肥満人口が低下しているのですが、60歳代から再び上昇していることです。女性は50歳代を越えると、肥満防止の努力を諦めるのでしょうかね?と解説が加わり、参加者の笑いを誘っていました。

続いて、世界各国の肥満人口の割合についての状況が説明されました。 現在までの世界の状況から判断すると、肥満の促進要因としては、食糧の供給度(=富裕度)と人種問題や社会階層などの社会的ストレス度、また肥満の抑制要因としては、教育水準や知性度などが主要因と考えられるということでした。 ストレスの「はけ口」としてカロリーの過剰摂取が起こることや、教育による知識水準の向上が有効な抑止策であることが質疑応答の中で議論されました。 当日出席されていた堀江和代夫人(浜松大学健康プロデュース学部健康栄養学科教授)からも、特に幼児を持つ家庭では母親の教育が重要であることが解説され、場内の納得・賛同を得ていました。

肥満の原因とその解消法に話題が移りましたが、「食べてはいけない」「運動しなくてはいけない」という従来の行動制御型の指導は逆に「ストレス」となり、「衝動食い等」を引き起こす可能性があることが指摘されました。 また、ストレスの持続による脳疲労が五感(味覚・嗅覚・触覚・視覚・聴覚)に異常を来し、食べ物の過剰摂取や異常摂取をもたらすことがあるとの仮説も紹介されました。 それらを解消するため、生活に「心地良さ」を追求することで脳疲労を解消し、健康を増進する方法論も紹介されました。 また、人体は本来かなりの調節機能を持っているのだから、調節能力を巧く活性化して、自然で快適な生活を送るのが良いのではないかという、堀江先生の考えが述べられました。

予防治療法の具体例としては、キャベツダイエット、こんにゃくご飯などが紹介されましたが、 最終手段としては、胃を小さくする外科的手術も行われているそうです。 英米ではこれが急増しており、アメリカでは年間15万件、イギリスではこのような手術を行う病院が27ヶ所もあることが紹介され、両国における肥満問題の深刻さが示されました。 こういった手術はここ数年、日本でも行われているとのことでした。

最後に、遺伝的素因として、脂肪や糖などのエネルギー代謝に関係するタンパク質遺伝子の違いが「肥えやすい」「肥えにくい」の原因となっている可能性が紹介されました。

質疑の中では参加者から、キャベツダイエットにより夫婦揃って肥満解消に成功した実践経験が報告され、会場から拍手がわき起こりました。

まとめとして、裕福で食糧が容易に手に入る環境では、知識獲得や教育といった知的活動が肥満防止に有効であり、家庭での多彩な食生活と適度な調節が行えるか否かという知的行動が重要であるという結論に至り、その意味では、サイエンスカフェ参加者は肥満の危険性が少ないのではないかと自賛しながら閉会しました。

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