開催報告(第15回)

蝶の羽ばたきが嵐を呼ぶ 〜予測不可能な現象カオス〜

講師 : 安田 秀雄
日時 : 2007年9月21日
会場 : Tea Room Laplace (喫茶ラプラス) (緑区浦里)

9月21日(金)緑区の喫茶ラプラスで、第15回のサイエンスカフェが開かれました。「蝶の羽ばたきが嵐を呼ぶ〜予測不可能な現象カオス〜」というタイトルで、統計力学、物性基礎論が専門の安田秀雄教授がカオスについてパソコンによる美しい絵を交えて話されました。

   「カオスは、初期値の少しの変動が大きな変動を引き起こす現象を言う」
   「フラクタルは自己相似性を持つ図形でカオスの幾何学的表現である」

という導入から話が始まりました。

最初の話題は、人口変動の方程式で、 の点をプロットし、その一部分を拡大すると自己相似性が見られるのでこの図形はカオスである、という例が示されました。次に、カオスゲームの例が紹介されました。三角形の頂点に1、2、3と番号を付け、最初に頂点以外の一点をとり1、2、3の乱数を発生させて、その点と発生した番号の点との中点をとるというものでした。この操作を続けて、中点を多数書き重ねていくとシェルピンスキーのガスケットが得られます。こうした図も、一部分を拡大すると自己相似性があることが示されました。

フラクタル次元は複雑さの程度を測る量で、線分は一次元、正方形は二次元、立方体は三次元となり、直感と一致します。雪の結晶に近いコッホ曲線によりそのフラクタル次元を計算すると1.26となるそうです。イギリスの海岸線はそのフラクタル次元を計算すると、1.31となるので凹凸がより複雑となるそうです。

フラクタルの理論の紹介に続いて、フラクタルを実際に描くPCによるデモが行われましたが、ソフトウェアの使い方と結果がよく分かり、理論の難しさを和らることができたのではないでしょうか。 IFS(Iterated Funcion System)というソフトウェアを使うと、いくつかの相似変換の組み合わせで、シェルピンスキーのガスケットになったり、羊歯の葉や雪の結晶のような形が簡単に得られます。どうしてそのような形が自然界に現れるかは分からないとのことでしたが、興味深いものでした。

次の話題は、マンデルブロ集合とジュリア集合でした。フラクタルエクスプローラーのソフトウェアの使い方の説明があり、それを利用したマンデルブロ集合とジュリア集合の図形が紹介されました。zを複素数とするとき、、ここで、 から始まりnが無限大になるとき有限にとどまる点の集合がマンデルブロ集合で、固定した任意のcに対応するのがジュリア集合である、という説明がありました。両集合の周辺部で、どの程度速く有限領域から離れるかの程度に応じて色付けしたものがフラクタル図であり、両方の図を拡大していくと同じような図形になることも示されました。図は非常に美しく、特にマンデルブロの「タツノオトシゴの谷」の部分は圧巻でした。

質疑応答では、株価がフラクタルであることを利用して利益を得ることができるかどうかの質問がありましたが、カオス理論の範疇外の返答の難しい質問だったようです。

最初は単純な演算の繰り返しでも、回数を重ねると反復のある幾何学模様が現れることに驚かされました。羊歯の葉や雪の結晶のように、一見複雑な形状も、単純な単位の繰り返しで描かれて得ることについて、自然界は小さな基本単位が何万回もの繰り返し構造の蓄積によって成り立っているのではないかという議論で締めくくられました。

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