開催報告(第24回)

生物多様性シリーズ 2

植物の多様な機能から環境・食・健康を考える

講師 : 谷本 英一
日時 : 2008年7月12日
会場 : 名城公園フラワープラザ 花工房 (名城公園内)

第24回サイエンスカフェは、7月12日(土)、北区の名城公園フラワープラザ花工房で開催されました。「植物の多様な機能から環境・食・健康を考える」と題して、本研究科の谷本英一教授が担当しました。

今回は、生物多様性シリーズの2回目で、生物多様性と表裏一体の関係にある自然環境問題とそれを支える植物の多様な機能について話題が提供されました。

まず、豊かな自然環境とは何か? という問いかけから話が始まりました。自然環境を構成する3つの要素「大気と水と土壌」が健康であることが大切で、それには植物の働きが深く関わっていることが説明されました。CO2と温暖化の問題が「洞爺湖サミット」の主要テーマになるほど騒がれているが、CO2濃度と温暖化の因果関係も定かでないことや、植物の光合成にとっては現在のCO2濃度は不足しており、もっと高い濃度が好ましいことが示され、驚かされました。光合成に関する植物の環境適応・進化の例として、C3光合成とC4光合成の特徴が説明されました。乾燥しがちな環境で、ソルガム、トウモロコシ、サトウキビなどのC4植物が旺盛に成長できるしくみや、ベンケイソウやサボテンが湿度の高い夜に気孔を開き昼は閉じたまま光合成するしくみが図解され、植物の多様な能力に感心しました。参加者から「乾燥に強い植物の特徴をイネなどに導入できないか」という質問がありましたが、複雑な機能導入が必要なため、まだ部分的にしか成功はしていないとのことでした。

次の話題は、水と土壌の問題に深く関係する「植物の根」の話に移りました。雨水がゆっくりと地面に落ち、土壌に浸透していくことが環境の安定には有効で、それには樹木の生い茂る森の役割が大きいことが示されました。また、土壌中では植物の根が根圏を形成し種々の生物と共存しながら土壌環境を維持していることが図解され、植物の根の形状は、土壌の環境ストレスで大きく変化することも示されました。根の形態・維管束系の多様性がきれいな蛍光顕微鏡写真と模式図を使って解説され、根の組織形態の進化は、地上の茎より変化が小さいことが解説されました。これは、地中の環境変化が地上より小さく、安定していることと関係していると考えられるようです。近年の根の応用研究からは、根のはたらきを上手く利用する研究が2つ紹介されました。乾燥地の農業で、土壌下層の水分を利用するため、深い根の植物に水を吸わせ浅い根の植物に分配させて育成する方法や、長い根をもつ苗を育てて深く植え込み、下層の水だけで育てる方法です。これらは何れもアフリカや中東の現地実験に成功したそうです。一方、水が豊富な日本では水田による稲作文明が発達してきたが、イネの根が水田の泥の中で成長するために、根の内部に通気組織という空隙をつくり、地上から酸素を得ていることが紹介されました。レンコンが泥の中で成長するのと同じ原理だそうです。水田に育つイネにはこんな能力があったことに驚かされました。

日本には世界一大きい桜島大根と世界一細長い守口大根があり、食文化として定着しているという話題から、食べものと健康の関係に話題が発展しました。植物の多様性と食文化は深くつながっていて、地球上でも希な気象条件に恵まれた「日本列島」での「合理的な食」について提言がありました。飲み物としてのお茶の効能も近年の国際学会からの資料で説明され、「日常茶飯事」の長所に納得させられました。稲作文明と味噌・醤油を基盤とした多彩な日本の食文化が、持続可能で健康的な食生活の基本ではないかという提言で、膨大な内容の話題提供が終わり、10分ほど時間を超過して質疑応答が続きました。また、散会後もいくつかの質問があり、植物と環境と健康の関係に参加者からの高い関心が示されたサイエンスカフェでした。

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