開催報告(第32回)

コンピュータはどれだけ賢いか?

講師 : 渡邊 裕司
日時 : 2009年4月17日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

第32回のサイエンスカフェは、4月17日(金)午後6時より中区栄のナディアパーク7階の7th Cafeで開催されました。サイエンスカフェでは2回目の登場となるシステム自然科学研究科准教授の渡邊裕司氏が、「コンピュータはどれだけ賢いか?」というタイトルで、人工知能(Artificial Intelligence, AI)について話題を提供されました。

まずAI研究の当初は人間の知能そのものを持つ機械を実現しようとする立場(強いAI)を目指していましたが、現在では人間の知的活動の一部と同じようなことを機械にさせようとする立場(弱いAI)がほとんどであることが紹介されました。そして、知能実現を難しくしているAIの話題として、機械に知能があるかを判定するためのテスト方法である「チューリングテスト」、今からしようとしていることに関係のある事柄だけを選び出すことが実は非常に難しいことを指摘した「フレーム問題」について説明されました。

話は、「知能とは何か?」というやや哲学的で堅苦しい話題からより身近なパズルをAIの基礎手法で解かせる話題へと移りました。パズルの例として新聞や雑誌でもよく見かける「数独」を取り上げて、その解き方や歴史を話されました。そしてAIの探索手法で数独を解くコンピュータプログラムを実演されました。参加者の方々は、時間をかけて実際に解いた数独の問題をコンピュータが素早く解いてしまうことに驚かれたようでした。また、コンピュータには人間が何気なく行っているパターン認識が難しいことのようで、人間とコンピュータでは解き方が違うことも実感されたようでした。

実演されたプログラムのようにAIでパズルなどの問題を解くためには、まず問題をコンピュータで扱えるように定式化する必要があるそうで、ハノイの塔という簡単な例題を用いて、問題を状態、オペレータ、目標検査、経路コストなどの構成要素に分けることを解説されました。そして定式化された問題の解を探索する基本的な方法として、深さ優先探索と幅優先探索を説明されました。

休憩と質問タイムを取った後、より複雑でAIの応用研究の一つである「ゲームプログラミング」について解説されました。ここで想定するゲームとは、チェスや将棋や囲碁など「二人零和有限確定完全情報ゲーム」と呼ばれるものだそうです。このゲームは、理論上は完全な先読みが可能であり、双方のプレーヤが最善手を打てば、必ず先手必勝か後手必勝か引き分けかが決まるそうです。理論的には「Min-Max探索法」というものにより最善手を求めることができるそうです。ただし実際には完全な先読みは困難であるためゲームとして成立するそうですが、コンピュータチェスは1997年に世界チャンピオンに勝利し、コンピュータ将棋も2008年にアマ名人に勝つレベルにあるそうで、ゲームが成立しなくなりつつあるともいえます。

しかし、コンピュータ囲碁については、探索範囲が広く、評価関数の作成が難しいことから、新しい手法の開発が必要だそうです。講演の最後として渡邊先生の研究室で開発中のニューラルネットワークを用いたコンピュータ囲碁が紹介されました。ニューラルネットワークとは、生物に学んだ機械学習の一つであり、生物の神経細胞の仕組みをまねたニューロンモデルを多数つなげてニューロン間の結合荷重を変更することによって所望の出力を学習するそうです。

講演の途中でも参加者の方々から質問を受け付け、なぜ強いAIの研究は行われなくなったのか?ハノイの塔はベトナムのハノイと関係あるのか?カーナビにAIの探索手法は使われているのか?ゲームではなくもっと実用的なものにAIは応用されているのか?ロボット研究と比べるとAI研究は遅れているのでは?といった多くの質問があり、AI研究への興味と今後の発展に期待しているようでした。

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