開催報告(第34回)

生物の多様性と進化の数理

講師 : 能登原 盛弘
日時 : 2009年6月19日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

今回は、ひさしぶりに小学生の参加もあり、能登原先生もいろいろと教育的配慮をしておられた。お話は、分子進化を題材として始められた。まず、「地球の歴史は地殻の地層にあり、全ての生物の歴史は染色体に刻まれている」という木原均博士の有名な言葉を紹介され、近年のゲノム解析によりこの言葉の重みが益々増していることを述べられた。DNAおよび遺伝コードなど簡単な遺伝の基礎の話の後、血液型について、その遺伝子の実体と遺伝子頻度について紹介された。会場の参加者の血液型を挙手で確かめてみると、確かに日本人の各血液型の割合とかなり一致していたのには少なからず驚いた。血液中で酸素を運ぶヘモグロビンのアミノ酸配列比較による系統樹の作成や、ヒトは発生の過程では遺伝子を使い分けていることなどが紹介され、よく知られた遺伝子にも進化の様々な側面が見えることを示された。

続いて、ミトコンドリアを用いた系統樹の話に移り、配列比較によって、ヒト、チンパンジー、ゴリラなどの類人猿の系統樹を作成する方法、さらにミトコンドリア・イヴに関連した現生人類の起源と人類の地球上での拡散について紹介された。

後半は分子進化の中立説を説明しながら、進化速度や有効個体数など進化の基礎理論の考え方と手法について紹介された。特にインフルエンザウイルスの遺伝子進化速度が通常の生物に比べて異常に速いこと、ヒト集団は有効個体数が1万ぐらいの遺伝的多様性しかないことを説明された。

最後に、自然選択の例として、視覚と嗅覚遺伝子について話された。生物は5億年以上前のカンブリア紀に紫外線、青、緑、赤色を感知できる遺伝子を獲得したにもかかわらず哺乳類の祖先は中生代に夜行性であったため、紫外線と緑を感知する遺伝子を失い、その代わり嗅覚を発達させていたこと。その後新生代に入り、ヒトを含む類人猿の仲間は昼間の世界に生息域が広がったため、突然変異と自然選択によって再び、赤、青、緑の三色視が可能になったことなどが紹介された。嗅覚を発達させた哺乳類は嗅覚遺伝子を1000個ほども持っていたが、視覚を発達させた人類ではその半分以上の遺伝子が活性を失った偽遺伝子となっている話はとても興味深く印象に残った。時間内に収まりきれない程盛りだくさんであったが、参加者からは生物の起源や遺伝子組み換え作物など様々な質問が出され、楽しい2時間であった。

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