開催報告(第36回)

カタチの数学

講師 : 鎌田 直子
日時 : 2009年8月21日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

トポロジーは図形を扱う数学の一分野で、「柔らかい幾何学」と呼ばれているそうです。大学で学ぶことができます。大学の数学といえば、微分や積分が組合わさった複雑な数式や公式を想像して頭が真っ白になるかもしれませんが、この日のサイエンスカフェでは「グラフ」や「結び目」という誰でも理解できる対象を使ってトポロジーへの入り口が紹介されました。

最初は、小学校や中学校で学ぶ図形の分類の仕方とトポロジーでの図形の分類の仕方の違いの説明から始まりました。私たちがこれまで学校で習った図形の分類は「合同」でしたね。平行移動や回転などで重なる図形どうしは同じ仲間と考えます。その次に「相似」という分類も習いました。このような分類では3角形と同じ仲間は3角形であり、決して4角形や円にはなりません。一方、トポロジーでは連続的に移り合う図形は同じ仲間と考え、「同位」といいます。3角形と円は同位(同じ仲間)です。3角形と4角形や5角形も同位です。立方体と球体は同位です。コーヒーカップとドーナツの形も同位です。コーヒーカップを連続的に変形してドーナツに変わっていく様子がアニメーションで紹介されました(パソコンでの簡単なアニメーションだったので、ちょっと動きがぎこちなかったですが...)

トポロジーの「同位」は、ちぎったり貼付けたりすることなく連続的に図形を変形してもいいので、図形の形はかなり自由に変わります。これが「柔らかい幾何学」と呼ばれる理由とのことです。

話をここまで聞いたとき、そんなに図形の形を変えてしまったら何か困ることが起きないのか、それどころか、全く意味が無くなってしまうのではないか、と疑問に思いました。3角形と4角形が同じ仲間だなんて...

この疑問を払拭するかのように、話がトポロジーの起源にうつりました。トポロジーの始まりは約250年前のレオハント・オイラーにまでさかのぼるそうです。さっそく「ケーニヒスベルグの橋の問題」が説明されました。ケーニヒスベルグという町に大きな川があり、7つの橋が架けられていました。どの橋も2度通らずに、しかも全ての橋を通って元の場所に戻ってくることができるか、という問題です。答えはNOです。みなさんもどこかで聞いたことがあるでしょう。オイラーは橋の架かり方を「グラフ」に置きかえて、グラフが一筆書きできないことを数学的に証明することで、ケーニヒスベルグの橋の問題を解決しました。そこでサイエンスカフェの話題は一筆書きなり、参加者みんなで一筆書きのゲームをしました。グラフが一筆書きできるかどうかは、簡単なトリックを使えば分かることも教えてもらいました。

大雑把に図形の持つ性質を調べ、一見複雑そうに見える問題の本質を抜き出して解決すること、それがトポロジーの醍醐味なのですね。

次のトピックスは「結び目」でした。結び目は端点どうしが閉じられたひものことです。ただし、このひもは自由に形や長さをかえることができる素材で作られていると考えます(もちろん現実にはそのような素材はありませんが、ひもの長さがある程度長ければこのように近似して考えてもいいでしょう)。結び目どうしも連続的な変形で移り合うときに「同位」といって、同じ仲間だと考えます。いくつかの結び目が例に挙げられて、それが同位か同位でないかを判定するゲームをしました。このゲームは結構難しかったようです。実際、同位か同位でないかを判定することは数学者でも難しいそうで、そのために「不変量」という数学の道具が使われるそうです。

数学者が使う不変量は難しいものが多いそうですが、簡単な不変量の「3彩色可能性」が紹介されました。これはある特別なルールで結び目の絵を3色で塗ることができるか、というものです。3彩色可能な結び目の仲間は3彩色可能でなければなりません。これを使えば先ほどの同位か同位でないかを判定するゲームの多くは解決します。3彩色のルールはとても簡単だし結び目に色を塗るだけなので、わかってしまえば朝飯前です(3彩色可能性でも判定がつかない時は多項式不変量が使われるそうです)。短い時間でしたが実際に結び目の判定を通して数学の手法を体験しました。ただ、3彩色可能性のルールがなぜ得られたのかの数学的なバックグラウンドはサイエンスカフェの中ではとても説明できないそうです。大学に入ってぜひ数学(トポロジー)を勉強して下さい。

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