開催報告(第41回)

植物バイオテクノロジーから考える世界の近未来像

講師 : 湯川 泰
日時 : 2010年1月15日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

2010年最初のサイエンスカフェは、「植物バイオテクノロジー」をテーマに世界の現状と予想される今後を様々な面から考える企画でした。講師は名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科の湯川泰准教授で、本サイエンスカフェ2度目の登場です。先生のご専門は「植物分子生物学」で、植物の遺伝子発現制御の研究を日頃行っておりますが、遺伝子操作で新しい作物を作る研究には携わっておりません。「しかし、植物研究者の端くれとして遺伝子組換え技術は避けては通れないテーマである」、と前置きされて話がスタートしました。

まずは、科学というものの考え方から説明が始まります。デカルトの確立した演繹論(合理性)とベーコンの確立した帰納論(経験)がうまく融合して、科学はうまく前進することを分かりやすく説明されました。その後、植物バイオテクノロジーの理論を正しく理解した上で、各自が科学的に判断して、許される線と許されない線をそれぞれが見つけて欲しいと述べられました。

まず、一般的に人々が抱くバイオテクノロジー(特に遺伝子改変作物)に対する不安について考えます。そこで、人々の抱く恐怖感の傾向を詳しく分析します。人は普段経験していないことに対して強い恐怖を覚え、日常的なことには恐怖感が麻痺する傾向にあります。雷と交通事故、狂牛病と喫煙を例に挙げ、どちらが怖いか問われました。感情的には前者が明らかに怖いと感じますが、危険にあう確率が高いのは圧倒的に後者です。遺伝子組換えも日頃接していないので恐怖感を覚えますが、それは何となく怖いだけでは科学的ではありません。そこで、危険性なるべく減らす工夫がされていることを、実例を挙げて詳しく説明してゆきます。

次に、遺伝子組換えによらなくても危険なものが身の回りに氾濫している実例を見てゆきます。実際に、普段何気なく食べているものにも、危険なものが存在します。逆に極言をすれば、100%安全なものはこの世には存在しないことになります。健康を維持するには、偏食をせずに、いろいろなものを数多く少しずつ食べるのがよいとおっしゃっていました。また遺伝子組換え技術に戻って、今後世界の抱える諸問題が、植物の利用で解決できる可能性のあることを解説してゆきます。人口爆発、エネルギー問題、環境悪化などが、植物の持つ潜在力を少し高めるだけで、植物が大きな解決策になり得ることを解説します。

植物の遺伝子組換え技術の現状を考えますと、国外の国際バイオ企業が寡占的に世界で事業を展開しています。我が国には、良質な技術が存在するにもかかわらず、実用化が大きく立ち遅れている現状があります。このような状況を将来的にどうするべきなのか、みんなで考える一夜となりました。

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