開催報告(第48回)

生物多様性シリーズ

ホタル
  〜蛍狩りの文化から最先端バイオイメージングまで〜

講師 : 大場 裕一
日時 : 2010年9月17日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

第48回サイエンスカフェが9月17日(金)に開催されました。今回の話題提供者は、ホタルの発光メカニズムの研究で知られる名古屋大学の大場裕一氏で、タイトルは、ホタル〜蛍狩りの文化から最先端バイオイメージングまで〜というものでした。

話は、ホタルの生きた幼虫や江戸時代、明治時代のホタル狩りの様子を描いた浮世絵などを示しながら、ホタルについての一般的知識の紹介から始まりました。世界中にはおよそ2千種のホタルがいるそうですが、その大半が陸生のもので、幼虫が川や田んぼ、沼など水中で生活し、水生の貝類などをエサとするものは、日本、台湾、インドネシアなどで数えるほどしかいないとのことです。

日本人は昔からホタルを愛でてきましたが、1万7千人ほどを対象とした最近のアンケート調査では、「一番好きな昆虫は?」の質問では、ホタルは、カブトムシ、クワガタを抑えて堂々の1位で、「いなくなると寂しい昆虫は?」の質問でも、トンボ、スズムシを数で凌駕して1位であったそうです。

一方、日本以外の国ではホタルに無関心な者がほとんどだそうで、日本人のホタルに対する愛着の度合いは並はずれているとのことでした(お隣の韓国ではホタルには多少関心があるようですが…)。話題提供者が、ホタルが多く生息するアメリカのある公園でホタル狩り中に、不審者と間違われ、「何をしているのか?」と問いただされたので、「研究用にホタルを採集しているのだ」と答えたところ変人扱いされたといいます。また、中国でも、共同研究者がホタルの採集時に、何の目的でたくさんのホタルを採っているのかと村人に聞かれ、「研究用に集めている」と言ったところ、「食えるのか?」と逆に聞かれたというエピソードを紹介していました。

次に、“知っておきたいホタルの新常識”というテーマに移り、初めに西日本と東日本の源氏ボタルでは光る間隔が違うことが説明されました。すなわち、西日本では2秒間隔で光り、東日本では4秒間隔で光る事実があることが確認されているといいます。「なぜか?」の聴視者からの質問には、大場氏は、同じ源氏ボタルでも大陸から日本へ北と南の2つのルートから光る間隔の違うタイプのものが入ってきたと推測している、との説明がありました。

ホタルは光るものだという固定観念を持っている人が多いようですが、実際に成虫で光りを放つものは少なく、光らないホタルがほとんどを占めるといいます。ただし、その成虫で光らないものも、幼虫時代や卵の段階では(かすかに)光るそうです。

ホタルが光るのは、オスのメスへの存在アピールのためだ、つまり光りの信号だ、といわれてきました。もちろん、この推測は間違いではないと思われますが、それ以上に、他の捕食者に食べられないために自分の存在を知らせる意味合いが強い、と考えられてきているそうです。昆虫の捕食を専門とする蜘蛛もホタルが糸にかかっても食べないし(ただし、中にはホタルを好んで食べる蜘蛛もいるという)、飼育中のモグラ(食虫類)の仲間のジャコウネズミにホタルを食べさせたところゲーゲーと激しく嘔吐し、ニ度と口にしなかったそうです。また、あるホタル研究者が試みに食べてみたが、臭くて苦くてとても食べられたものではなかったという記録も残されているそうです。このようにホタルは不味い自分自身の存在を強調し、間違って食べられないように光るのだ、という見方が有力になっているというのです。

最後に、光るメカニズムについて触れられました。実際は非常に複雑なメカニズムだそうですが、発光過程をごく分かりやすく示すと下記のようになります。

発光生物は、光りの元となる「ルシフェリン」という物質を生体内に有し(厳密にいえば、それぞれの種ごとのルシフェリンがあり、ホタルは「ホタル・ルシフェリン」を持っている)、これに“生命の共通通貨”の別称があるATP(アデノシン三リン酸)と酸素がくっつき化学反応が起きる。この過程に酵素のルシフェラーゼが触媒の役目を果すことによって初めてルシフェリン酸化物が生まれ、これが光るというわけです。

生物の発光を研究しても、人類に役立つとは到底思えないので、かつては他人からは道楽だと捉えられてきたといいます。しかし実はそうではなく、ある場所にある生物がどれほどの数生息しているのかを調べるのに、ホタルの発光システムを使えば容易に調べることができるそうですし、癌の発生や転移に関する遺伝子を調べるのに、この発光システムが役に立つことが判ってきているそうです。

参加者からは、「ホタルは昔はどれくらいいたの?」とか、「何を食べているの?」とか「ホタルの天敵は?」など、その他多くの質問が出されましたが、すべてに判りやすく説明がなされ、みな肯いて聞いていました。ホタルの生息数を減らさないことは、とりもなおさず自然環境の保全につながるわけで、生物多様性という事柄を考えるうえで、格好の対象物であることを理解いただいたのではないでしょうか。

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