開催報告(第49回)

子孫を残すしくみに見る生物多様性

講師 : 加藤 宏一
日時 : 2010年11月19日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

第49回サイエンスカフェが11月19日(金)に開催されました。今回は名古屋市立大学の加藤宏一氏に生物多様性の基礎となる子孫を残すしくみについて、ウニと渦鞭毛虫を中心に話題提供をしていただきました。

話の冒頭に、10月末に名古屋で開かれた生物多様性条約締約国会議(COP10)の成果について紹介がありました。遺伝資源へのアクセスと利益配分を主な内容とした「名古屋議定書」、生物多様性の維持をめざす「愛知ターゲット」共にバラ色の内容ではあるものの、多くが今後の努力課題となっているのではないかとの見方が話されました。

本題にはいって、1000万種にも及ぶと推測される生物の種類分け(分類)の基礎的な単位としての「種」がどのような定義によるものであるのかが説明されました。その中でも重要な意味を持つているのが「繁殖集団」であり、各々の種は独自の繁殖方法によってDNAに書かれた種の特徴を子孫に伝えています。すべての生物は、DNAを正確にうけ渡し種を維持するための精巧な仕組みを持っています。生物の多様性や進化はこのしくみによって維持されているといっても過言ではありません。

生殖法を大きく無性生殖と有性生殖にわけることができ、それぞれに利点と不利益な点とが考えられます。現実の生物はそれぞれの利点を生かす形で、あるいは両方の仕組みをたくみに組み合わせた形で種を維持しています。無性生殖の例としてはヒガンバナ、セイヨウアサガオ、ヒドラ等がよく知られており、取り木や挿し木も人為的に無性生殖させていることになります。ソメイヨシノに寿命があるかどうかの話はニュースになったこともあって質問も多く盛り上がりました。

次いで原生生物プランクトンである渦鞭毛虫類の話になり、同じなかまでもいろいろな生殖法で増えていることが紹介されました。渦鞭毛虫類の一種ハダカフタヒゲムシでは無性生殖(分裂)しかおこなわれていませんが、古くから世界中に分布しています。環境の変化に対しては嚢胞(休眠シスト)を形成するすることで対応し、条件がよくなれば泳ぎだして爆発的に増殖し赤潮をひきおこしたりします。ハダカフタヒゲムシの前後で不均等な分裂のしかたや、シスト形成の過程について多くの写真を使って説明されました。休憩時間に、研究室で培養されてた生きた材料を顕微鏡下で観察でき、多くの参加者が盛んに泳ぎ回っているハダカフタヒゲムシに感銘を受けていました。

後半では有性生殖をする生物の一例としてウニについての話がありました。ウニの仲間は似たような卵と精子をつくります。またサンゴ礁のラグーン内などでは時を同じくして何種類ものウニが一斉に放卵・放精をします。この状態では簡単に雑種ができそうですがそうはいかないのはなぜでしょうか? その理由について卵と精子が出会ってから受精が成功するまでの詳しく調べた結果が紹介されました。なかでも、卵の表面に精子が結合する段階は種の特異性が厳密に保たれており、異種の精子は表面でスリップしてくっつけないことがよくわかりました。

内容が多岐にわたりましたが、生殖法そのものが種の多様性の一部であることが理解できました。環境の汚染によって正常な受精が妨げられれば種の維持ができなくなり、生物多様性の減少につながるのは当然の理と言えましょう。資料が多く終了時間まぎわまで話がつづき、質問や討論の時間が十分にとれなかったのは残念でした。

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