開催報告(第50回)

分光計測で何がわかるか
  〜光を色、時間、方向で分ける〜

講師 : 渡邉 凖
日時 : 2010年12月17日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

記念すべき第50回サイエンスカフェが12月17日(金)に開催されました。 今回は、話題を提供していただいた渡邉先生自身からの報告という形で 開催報告を掲載させていただきます。

「分光計測で何がわかるか〜光を色、時間、方向で分ける〜」とのタイトルで、分光学の基礎を分かりやすく、実物を示せるものはできるだけ示してお話することに留意しました。

まず人間の眼がある意味敏感ではあるけれど騙されやすい例として、干渉フィルターを通した480nmの青い光と580nmの橙色の光を二股になった光ファイバーで混合し、白色光に見えることを確認してもらいました。光の三原色という言葉に引きずられて白色に見えるには三色必要と考えられている方が多かったようですが、二色でも白色に見える場合があることを納得して頂きました。その後、光を色で分けることに必要な器具として、お馴染みのプリズム、主流である回折格子、鏡のように見える干渉フィルターの現物をお見せし、特に高い分解能を持つファブリペロー干渉計は写真で紹介しました。どれも同じように見える干渉フィルターがそれぞれ固有の色の光を透過し、透過の角度によって色が変わるのには参加者の方々も驚かれたようでした。続いて光の検出素子として、光電子増倍管を中心に解説しました。

次に色で分けるといっても、波長を考える場合と、波数を考える場合があり、光のエネルギーが問題となるときは、波数表示が普通であることをお話ししました。例として蛍光分析の際、ラマン散乱光が励起波長によって大きく変動することを示しました。

吸収スペクトルから分かる事柄として、加水分解により吸収スペクトルが変化するが等吸収点が存在する例をあげ、反応の前後で物質の総量が不変であることが分かることを説明しました。分光光度計や分光蛍光光度計の外観写真や光路図も示しましたが、早口の説明になってしまい、全く不要ではなかったかと反省しています。

次いで配布した簡易分光器で喫茶店の白熱電球のように見える照明器具を観察して貰い、虹の七色だけではなく、数本の輝線が存在することを確認して頂きました。この前に教材セットに入れておいた白色LED灯の発光を見て貰う予定でしたが、説明を忘れてしまい、後で用途を質問され、始めて思い出したのも反省点の一つです。照明器具は実は蛍光灯であり、七色の連続スペクトルは蛍光物質の、輝線は水銀ともう一種の物質による発光であること、物質固有の発光スペクトルを測定することによって、恒星等の離れた場所での元素の存在、恒星の後退速度、温度、磁場の強さ等もわかることをお話ししました。

太陽光のスペクトル写真を映して、暗線(フラウンホーファー線)が存在することを指摘、太陽大気中の元素による吸収であること、これによって新元素が太陽大気中に発見され、太陽にちなんでヘリウムと命名された後、地球上でも発見されたことをお話ししました。

トンネル内部の照明によく使われている大型ナトリウムランプを点灯し、簡易分光器で黄色の輝線スペクトルが一本だけ見えることを確認して貰いました。続いてリチウム、カリウム、銅などの化合物が花火の色のように炎を染める炎色反応を紹介しました。リチウム炎の鮮やかな紅色が特に印象的だったようです。最後にナトリウム炎を点火し、ナトリウムランプと同じ色であることを見て貰った後、最初の手品として、ナトリウムランプの前のナトリウム炎がファンタジーの世界の黒い炎のように見えることを披露しました。これが吸収スペクトルの現れであること、黒いということは、黒いものがあるとは限らず、周りより暗ければ黒く見えること、太陽の黒点と同じ意味での黒い炎であること、と種明かしをしました。

この後質問タイムに入りましたが、光や色やエネルギーについて様々な質問が飛びだし、市民の皆様の関心の対象が広いことに驚かされました。「愛知トリエンナーレで、…」と質問が始まった時には答えられるのだろうかと心配になった程です。

休憩の後、「光を時間で分ける〜高速分光」のお話をしました。高速時間分解測光に使用する機器を三種紹介しました。高速現象追跡の原理として、繰り返し現象は周期をずらせてサンプリングすれば、全波形を観測出来ると云うことを説明しました。光オシロスコープとも言われるストリークカメラの原理と実際のデータ、単純な高速オシロスコープ使用例も紹介しました。

最後に、「光を方向で分ける〜偏光測定」の話の前に、手品として偏光板を用いたマジック・ボックスの披露を行いました。木箱の両脇に開けた窓から、内部に黒い膜が張ってあるように見えるけれど、手袋をはめた手が自由に通過できるというものです。このマジック・ボックスの小型のものを作れるよう、偏光板と作り方の解説を配布していましたが、説明不足だったようで、後から質問メールが来ていました。最初に披露した二股の光ファイバーが偏光測定のために開発されたこと、偏光解消によって分子運動の様子がわかることをお話しして終わりといたしました。時間切れで偏光フィルムを使ったデモ実験が全く出来なかったことは心残りです。

全体として、原理や装置の説明は最小限にして、いろいろなデモ実験を見て貰う、分光器や偏光フィルムを使って参加者の方々に自分で遊んで貰う、質疑応答の時間をこまめにとり、充分な説明をする、等に重点を置くべきだったと反省しています。

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