開催報告(第51回)

バイオ液体燃料の功と罪

講師 : 櫻井 宣彦
日時 : 2011年1月28日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

今回のサイエンスカフェは『バイオ液体燃料の功と罪』といったタイトルで行われ、科学的な基礎知識を積み上げて、バイオ液体燃料の将来性について皆様で考えようといった趣旨で行われました。

私は遅れて到着しましたが、既に席は満席状態、話題提供者の方も想定以上と驚いていたようです。まず、広い基本的な見識をつけるため『バイオマス活用の考え方』について話しがありました。今日の鉱工業、農林水産業の発達はほとんど化石エネルギーに頼った発展であり、今までに、資源枯渇や環境破壊の危険性に遭遇してきました。従って、新たなエネルギー開発は資源・エネルギー多消費型から自然生態系調和型のエネルギー開発へと転換を図らなければならないことを述べられました。

バイオマスをエネルギー資源として利用するにはその特徴、特にその欠点を知らなければなりません。それらを踏まえて、『バイオマス利用システムと具体的イメージ』について話しがありました。特に強調された事は消費の行き過ぎや生産と消費の環が切られたとき、化石エネルギーと同様に資源の枯渇や環境破壊がおこること、また、経済性のみで考えた場合、バイオマスエネルギーは不利なケースが多く、その資源を多段階に総合的に利用する必要があることが述べられました。

次にバイオ液体燃料の実用の一例として『自動車へのバイオエタノール利用』について話がありました。ここで化石エネルギーの使用の削減を考える上でとても重要な『エネルギー収支』の計算方法と化石エネルギーの投入を考えた実際のバイオエタノールのエネルギー収支の値が示されました。ここで、なぜ原料によりエネルギー収支に差が生ずるのか、一般には無視されている原料によるプロセスの違いを説明されました。つまり製品では原料がわからないと言ったことだろうと思います。

ここで、某民間団体のどちらかと言えばバイオ液体燃料に対して批判的な立場をとっている団体の作成したビデオが上映されました。初めてこういった内容のビデオ見た私はかなりショッキングな内容でした。これでタイトルの罪の部分をカバーされていたと思うのですが、サイエンスカフェのビデオ上映に抵抗がある方もいたかも知れません。しかし、同一人物が功罪を同時に話すことは非常に難しいと思われますので、問題提起の方法としては良かったのでは無いでしょうか?

ここで会場の方とこのビデオを通してバイオ液体燃料の問題点について整理がありました。ポイントとしては『原料は何であるか?』『食糧と競合しないか?』『原料の栽培地はどこであるか?』であることがまとめられました。

立場の問題があり、ビデオの内容と言っていることに違いがありましたが、テクノロジーには、発展・発達がありますので、現在、不可能であることが近未来的に解決することがあり、科学者の立場からは簡単にあきらめるといったことは望ましくないことが述べられました。

バイオエタノールを考えて見ますと、グルコースを原料とする場合、現在唯一、エネルギー収支の問題が解決されている技術だそうです。デンプンを原料とする場合、液化の工程がエネルギー収支を非常に悪くしていますので無蒸煮の糖化などが実用化すれば、使える技術となり得るそうです。ただし、これらには食糧と競合しない栽培地の問題を回避する必要があるようです。セルロースを原料とする場合、粉砕時の化石エネルギーの使用が少なければ、食糧と競合しないため、夢の技術となる可能性があることが述べられました。 

GMO(Genetically Modified Organism)の問題は取り扱いが難しく、問題をプロセスに用いるGMOと原料植物で用いるGMOに切り分けて考える必要性があることが話されました。

最後に、完全は難しいが、私たち一人、一人が生き方、考え方を考え直す時期に来ていることことが述べられました。

今回はサイエンスのなかでも難解な話が最小限であり、また生活に関連する話題であったため、活発な質問や議論がありました。特に『現存するバイオマスで需要をまかなえるのか?』や最近話題の『石油を作る海洋性の藻』『BDF (Bio Diesel Fuel) のエネルギー収支や環境負荷』に関する質問等がありました。話題提供者も来場された方の熱心さ、問題意識の高さが感じられたと後で感想を言っていました。

身近な話題であり、倫理的な課題も含まれており、今回のサイエンスカフェは一般の市民の方々が科学者と議論するには適切な話題であったのだと思いました。しかしながら、問題が広範囲に及び、市民の方々と議論を積み上げていくには分野が異なる専門家や専門教員をそろえる必要があると思いました。結局、私は費用(人手)対効果の問題ではないかと感じました。

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