開催報告(第52回)

愛知県内の植物調査の現状

講師 : 村松 正雄
日時 : 2011年3月18日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

52回目のサイエンスカフェが、3月18日に、栄、ナディアパーク7階会場にて実施されました。話題提供者は、尾張旭市立南山(みなみやま)中学校の理科担当教師の村松正雄氏で、タイトルは「愛知県内の植物調査の現状 〜絶滅危惧植物を中心に〜」というものでした。

ご自身は、中学時代の理科教師に植物についての蘊蓄(うんちく)を聞かされて興味を抱いたのが始まりで、以後40年以上にも亘って愛知県内を中心とした植物生息調査に携わってこられたという。氏は県内には植物標本をまとめたものがないことから、植物調査会の立ち上げに腐心したとのことです。その調査会の活動は、1991年の発足から、5年後には10万点の標本を収集し、『植物からのSOS』(1996年)を発刊し、2009年には県のRDB(レッド・データ・ブック)の発行に至るなどの成果をあげているそうです。

講演の大半は、瀬戸市、春日井市、尾張旭市、茶臼山を主だった地として挙げ、いくつかの絶滅危惧植物が、それらの一部の地区にひっそりと生き長らえている様子や辺りの環境についての説明がなされるという形で進行しました。使われたスライド写真は60枚弱にも及びましたが、すべて県内をくまなく歩き講師自らが撮影したものでした。稀少植物を見つけたものの、雑草が生い茂ってきて陽の光が指さなくなって死滅しそうな場合には、(常時携帯の)鎌で汗だくで雑草を刈ったことや、水気がないと消滅する運命にある植物の時には、スコップで1坪ほどしかない沼を倍にする作業をしたものの、翌年には葦などが生い茂り、手がつけられない状態になっていたことなどの苦労話を交えた説明に、25名ほどの参加者は興味深げに聞き入っていました。

稀少植物の減少や消滅の要因はいくつかあり、開発によるものや、温暖化の影響などのほかに、最近では鹿の繁殖に伴う食害が問題になっているとのことでした。また、稀少植物の生息地(市町村名)が本や新聞などで紹介されると、その地を探し出し、自宅の庭で育てようと、勝手に持ち帰る輩が必ずいることや、さらには、本来は生息していない稀少植物を、他の地区から持って来て人工的に増やそうと余計なことをする輩がいることも困った問題だと指摘されていました。また、環境の悪化でひん死の状態にある稀少植物を行政に教え、移植してもらったはいいが、知識の不足から生育条件が以前よりも悪くなっていることもある(N市の運動公園に移植された「マメナシ」がその例)とのことでした。

愛知県には、植物標本を保管・展示する公営の自然史博物館がない(千葉県と神奈川県は充実したものがある)ので、この建設に力となるが目下の大きな目標だ、と語るときの講師の瞳が少年のように輝いていたのが印象的でした。

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