開催報告(第56回)

今日もテクテク健康づくり!
  でも1日1万歩だけではダメみたい………

講師 : 高石 鉄雄
日時 : 2011年7月15日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

7月15日(金)、第56回サイエンスカフェが中区栄の7th Cafeにおいて開催され、システム自然科学研究科准教授 高石鉄雄氏による話題提供が行われました。

まず始めに、「参加者が疲れない(眠ってしまわない)うちに、今日、皆さんに覚えて帰っていただきたいことをお話しします」という前置きのあと、今回の話題の結論として、長い距離をゆっくり歩くだけでは生涯にわたる自立は難しいこと、自転車は楽な乗り物で運動にならないと考える人が多いが、乗り方によっては自転車もいい面が沢山あることなどが紹介され、自身の身体を健康的に生涯にわたって余力(余裕) を持って動かすには、たまにはちょっと頑張ってみる(身体に負荷をかける)ことが必要であり、頭で分かっていても実践が伴わなければないことが強調されました。

続いて、「健康づくり」の目的を疾病による早世の回避と生涯にわたる自立の確保においた場合、その方向性は、脳・心臓血管系障害の予防および加齢に伴う脚筋力の低下予防であることなどが紹介され、前者には有酸素運動、後者には無酸素運動の実践が必要であることが指摘されました。前者の原因となる動脈硬化の進行や血栓形成のメカニズム、さらにそれらの背景となる内臓脂肪由来の生理活性物質(アディポサイトカイン)の影響などについて、若干ショッキングな動画を含めた詳しい解説がなされ、その早期発見の手段としてメタボ検診があることを参加者は理解されたのではないでしょうか。

次の話題として、平均して週に5日、1日に1万歩以上歩いている歩行習慣のある高齢者の血液検査に関わるデータが示され、その中には血中コレステロール値が同年代の運動習慣を持たない人達の平均と大差のない人が多数含まれること、さらにそのような人達は、平地を比較的ゆっくり歩いているため運動強度が不十分であり、有酸素運動の効果が十分に得られていないことなどが、心拍数計、歩数計、携帯型GPSなどを使ったデータを元に紹介されました。参加者の多くは、それらのデータによって初めて、一般に行われているウォーキングの多くが単なる散歩であって本当の意味での健康づくり運動として欧米で推奨されている「ウォーキング」ではないこと、健康づくり効果を得るには、運動の質(強さ)も大切であることなどを知り、タイトルの「1日1万歩だけではダメみたい」の意味を深く理解しました。

後半では、自転車を実際に走らせている際の運動強度(心拍数)に関するデータが示され、気楽に走っているようでも自転車走行では思った以上に運動強度が上昇しており、メリハリの利いた運動になっていることが紹介されました。自転車通勤を継続している中年男性や、週に数回、数時間のサイクリングを楽しんでいる高齢自転車愛好家では、血液検査の結果が同年代に比べて良いこと、呼吸循環系の能力や脚筋力に優れていることなどを示すデータが次々と紹介され、血管系障害予防や脚筋力の維持・向上につながる運動を辛いと感じることなく効果的に実施できることが自転車のメリットであることを客観的に示す高石氏の研究成果は、これまで、「基本は歩くこと」として進められてきたわが国の「健康づくり運動」に対する考え方に大きなインパクトを与えるものでした。

最後に、これから自転車に積極的に乗ろうという人に対するお勧めの自転車として変速機の付いた軽快車やクロスバイクが紹介され、参加者が熱心に聞き入る中で1時間40分にわたるサイエンスカフェは終了しました。当初、参加者が大幅に増えたことで発表者と参加者との距離が遠くなることが心配されましたが、自転車という身近な話題であったことや発表者の気さくな雰囲気もあって発表終了後には会場から次々と質問の手が上がり、話題提供者と参加者がサイエンスを共有するという主旨に合った楽しい時間となりました。

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