開催報告(第59回)

植物利用テクノロジーの描く未来像

講師 : 湯川 泰
日時 : 2011年10月21日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


第59回サイエンスカフェは、10月21日(金)中区栄の7th cafeで開催されました。この日のテーマは、いかに「植物利用テクノロジー」を使いこなし、未来を変えて行くかに焦点を当てました。話題提供者は、名古屋市立大学システム自然科学研究科教授の湯川泰氏です。

まず、本題に移る前に、今年東北を襲った地震とそれに伴う原発事故によって科学技術の信頼が如何に揺らいだのかについて吟味しました。今回の事故では、原子力の専門家が生物に対する放射線の危険性について大きな警戒を発さず、結果として事態を悪化させたこと、生物学の専門家の意見があまり聞かれなかったことを指摘し、放射性物質の生体に対する作用を生物学からの見地で客観的に解説しました。その後、放射線除去に植物の能力が利用可能であり、今後の研究に期待が持てること紹介しました。

本題に入ってからは、植物の遺伝子組換えによって新しい品種を作るとはどういうことなのか、実際の原理を解説して行きます。その過程で、遺伝子組換え作物についての是非を、参加者を交えて議論しました。その中で、遺伝子組換えには疑問を持っているし、食べたくないといった意見が多数述べられました。このような意見が出ることは、現状として当然のことです。それは、植物学者が積極的に説明をしてこなかったことも理由の一つです。そこで何故新しい技術が恐しく感じるのか、ヒトの抱く恐怖心とは何かを考えます。喫煙より狂牛病は何故恐いのか、リスク管理とは何かを考えました。次に、植物学者が社会の役に立ち、危険の少ない遺伝子組換え技術を如何に作る努力をしているかを紹介します。その過程で、将来的には植物のバイオテクノロジーはある程度は必要であるとの意見も聞かれました。

最後に、最近話題の植物工場について解説しました。安全、安心、安定の植物生産が可能である代わりに、コストが高くつくことが現在のデメリットです。しかし、我が国お得意の技術革新でそれらの問題は解決できそうなこと、震災地の復興に伴いエネルギーの地産地消に有利な点などを紹介しました。最後の議論では、農業問題も含めて、植物利用の是非について活発な意見が交わされ、有意義な時間を過ごすことができました。皆さんが、直接口に入るものに対する興味、こだわりが極めて大きいということを改めて感じさせられました。研究者も、さらに安全な技術をめざし続けなければならないと実感しました。

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