開催報告(第63回)

コンピュータがパズルやゲームに挑戦
  〜人間とコンピュータの違い〜

講師 : 渡邊 裕司
日時 : 2012年3月16日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


第63回のサイエンスカフェは、3月16日(金)に7th Cafeで開催されました。今回は、「コンピュータがパズルやゲームに挑戦 〜人間とコンピュータの違い〜」というタイトルで、人工知能(Artificial Intelligence: AI)やゲーム情報学についての話題でした。話題提供者は、ほぼ3年ぶりにサイエンスカフェ再登場となるシステム自然科学研究科准教授の渡邊裕司氏です。参加者が40名を超える大変盛況な会場でした。

まず、将棋ソフトなどに関する最近の新聞記事を挙げることから話が始まりました。そして、AI研究の概要として、二つの研究立場(強いAIと弱いAI)、AI研究の歴史、AIの話題を紹介されました。その中で、知能実現を難しくしているAIの話題として、機械に知能があるかを判定するためのテスト方法である「チューリングテスト」、今からしようとしていることに関係のある事柄だけを選び出すことが実は非常に難しいことを指摘した「フレーム問題」について説明されました。

話は、「知能とは何か?」というやや哲学的で堅苦しい話題から、より身近なパズルをAIの基礎手法で解かせる話題へと移りました。パズルの例として新聞や雑誌でもよく見かける「数独」を取り上げて、その解き方や歴史を話されました。そしてAIの探索手法で数独を解くコンピュータプログラムを実演されました。参加者の方々は、時間をかけて実際に解いた数独の問題をコンピュータが素早く解いてしまうことに驚かれたようでした。また、人間が何気なく行っているパターン認識がコンピュータには難しく、人間とコンピュータで解き方が違うことも実感されたようでした。

実演されたプログラムのようにAIでパズルなどの問題を解くためには、まず問題をコンピュータで扱えるように定式化する必要があるそうです。ハノイの塔という簡単な例題を用いて、問題を状態、オペレータ、目標検査、経路コストなどの構成要素に分けることを解説されました。そして定式化された問題の解を探索する基本的な方法として、深さ優先探索、幅優先探索、深さ制限探索を説明されました。

休憩と質問タイムの後、より複雑でAIの応用研究の一つである「ゲーム情報学」について解説されました。今回の話で想定するゲームとは、チェスや将棋や囲碁など「二人零和有限確定完全情報ゲーム」と呼ばれるものです。このゲームは、理論上は完全な先読みが可能であり、双方のプレーヤがMin-Max探索法により最善手を打てば、必ず先手必勝か後手必勝か引き分けかが決まるそうです。実際には完全な先読みは困難であるためゲームとして成立するそうですが、コンピュータチェスは1997年に世界チャンピオンに勝利し、コンピュータ将棋も現時点でプロ4段レベルにあるそうで、ゲームが成立しなくなりつつあるともいえます。

講演の最後として、渡邊氏の研究室で開発された「ニューラルネットワークを用いたコンピュータ囲碁」が紹介されました。コンピュータ囲碁は、探索範囲が広く、評価関数の作成が難しいことから、ゲーム情報学における次の研究対象になっているそうです。また、ニューラルネットワークは、生物に学んだ機械学習の一つであり、生物の神経細胞の仕組みをまねたニューロンモデルを多数つなげてニューロン間の結合荷重を変更することによって所望の出力を学習するそうです。

話の終盤は専門的で難解な話も含まれていましたが、実際にパズルを解きながら大変楽しめた内容でした。話の途中でも参加者から質問を受け付け、弱いAIを集めれば強いAIができるのか?将棋ソフトは並列計算か?ゲームではなくもっと実用的なものにAIは応用されているのか?量子コンピュータならば知能を実現できるのでは?といった多くの質問があり、AI研究への興味と今後の発展に期待しているようでした。

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