開催報告(第64回)

「はやぶさ」とALMAで探る太陽系の始まり

講師 : 阪本 成一
日時 : 2012年4月20日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


第64回のサイエンスカフェは、4月20日(金)に7th Cafeで開催されました。今回は、『「はやぶさ」とALMAで探る太陽系の始まり』というタイトルで、宇宙探査の最前線についての話題でした。話題提供者は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所教授の阪本成一氏です。参加者が50名を超える大変盛況な会場でした。

まず、現在の太陽系の惑星や小惑星などの位置、大きさ、組成などの概要とこれら天体の形成メカニズム概要についてのお話がありました。次に、太陽系の形成の理論に関してのお話がありました。京都大学の林先生たちのグループが中心となって展開されてきた標準モデル(京都モデル)で太陽系の形成についてほぼ説明できるが、モデルの予想する土星や天王星・冥王星などの外惑星の形成時間は長過ぎて、現実の太陽系の年齢より長くなってしまう等の問題もあるそうです。これは、何か重要な情報が見逃されている可能性があり、それを探ることが重要であるとのことです。特に、太陽や惑星が誕生する頃の太陽系の初期の情報が重要と考えられそうで、「はやぶさ」やALMAではこの情報の取得を目指しているそうです。

現在、地球にある岩石や地球にやって来る隕石などは太陽系を構成するものですが、地球の岩石では太陽系が生まれた頃の情報は既に失われているそうです。 これは、熱による変成のためだそうです。地球の岩石にはわずかに放射性物質が含まれ、その熱で地球内部は溶けて液体状になり重い鉄やニッケルなどの芯ができるなど、成分が分離・層状になっているそうです。隕石は南極大陸の雪上で大量に発見されていて、日本は多くのサンプルを持っているそうですが、表面は大気圏への突入時に高温になったためにもともとの様子をとどめていないそうです。このため、太陽系の初期の情報を得るためには、小惑星や彗星など強い熱変成を受けていないものを直接調べる必要があり、「はやぶさ」プロジェクトが立案されました。欧米でも探査機に分析装置を搭載して小惑星や彗星を調べていますが搭載できる装置には制限があり、「はやぶさ」のように小惑星からの直接サンプルを持ち帰り詳しい分析を試みるものは他にないことが強調されていました。また、「はやぶさ」プロジェクトは欧米のものに比べると非常に低予算なプロジェクトで、探査機の重量がわずかの500kg程度しかなく、担当者が設計や運用に非常に苦労していた話も披露されました。さらに、回収されたサンプルも非常にわずかで小さなものであるためカプセルから回収するのに非常に苦労されたそうですが、その甲斐があってサンプルリターンによる科学的成果は絶大だそうです。「はやぶさ」の成功により既に「はやぶさ2」プロジェクトの実行が決まっているそうですが、実は「はやぶさ」は本格的に有機物を含む小惑星からのサンプルリターンを目指す「はやぶさ2」のための予行練習にすぎないという話も披露されました。

「はやぶさ」は言わば変成していない太陽系の化石を探すプロジェクトですが、ALMAは惑星系がまさに誕生している現場を捉えようとしているそうです。誕生したばかりの星(恒星)の周りには星になりきれなかったガスやダストが円盤状に分布しており、これが惑星やその他の惑星系メンバーを形成します。この原始惑星系円盤を誕生したばかりの数多くの星で詳しく調べることにより、惑星系の形成の仕方やメカニズムが明らかにできるそうです。遠くて小さな原始惑星系円盤などを詳しく調べるためには、たくさんの小さなアンテナをたくさん集めて一つの大きな電波望遠鏡として働くALMAのような干渉計が最適だそうで、標高が高く水蒸気量が少ないチリのアタカマ砂漠はALMAの建設地としては理想的だそうです。ALMAは既に最初の運用が始まり、これからの成果がすぐに期待できるところまで来ているそうです。講師の阪本氏はALMAの建設の準備段階に携われたそうで、当時の苦労話も披露していただきました。

各話題の最後の質問の時間では、さまざまな項目についての質問があり、活発なやり取りがなされました。ALMAの建設地の賃貸料に関する質問は、講師の阪本氏も想定されてなかった質問だったそうです。

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