開催報告(第66回)

超伝導を見る!?触る!?
  〜高温超伝導の不思議〜

講師 : 田島 節子
日時 : 2012年6月15日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


現代物理学は、常人の想像を超えている。相対性理論と量子力学はその代表的なものであろう。しかし、それらの理論の効果を通常の生活で目にすることはない。その中で、“超伝導現象”は量子力学的効果を目にすることができる数少ない例ではなかろうか。特に高温超伝導物質が発見されてからは、液体窒素で冷やすことで簡単にその現象を見ることができるようになり、実用化も進んでいる。

今回のサイエンスカフェでは、講師の田島先生に超伝導現象及び高温超伝導物質の発見の歴史、その応用の広がり、そして(残念ながら今のところ‘高温’ではない)超伝導の代表的な実用例である中央リニア新幹線の原理と仕組みについて紹介していただき、実際に持参された高温超伝導体と強力磁石によるデモンストレーションで、その不思議な現象を見ることができた。

特に面白いのは、超伝導体は本来マイスナー効果で磁束を排除するのにも関わらず、実用される第2種超伝導体ではピン止め現象によって一旦超伝導体に入った磁束は外に出ることもできなくなり、その状態を維持することである。そのため、近づけた永久磁石は超伝導体から浮くというより、数ミリ離れた状態でくっついて離れないという不思議な状態になる。これを自分の手で試してみることができたのが、とても面白かった。この磁束が固定されている状態が、高速で走る新幹線でも脱線せずに、しかも浮いたまま走れる技術の基礎になっているということだ。

超伝導で新幹線が走るというと、東京から名古屋まで全部のレールを超低温に冷やさないといけないように思ってしまうが、実はそうではなく、冷やさなければならないのは車両内の超伝導体で、外には、その磁束に反応するただのコイルがあればよい。この方式は、JR東海が発明した世界唯一の独自技術ということである。勿論、それでも車両の駆動のリニアモータのために、かなりの電力は使うのであろうが、東京−大阪を1時間でつなぐことによって、これまで飛行機を利用していた乗客が乗り換えるとすれば、エネルギートータルではかなりの節約になるのではなかろうか。東京から名古屋に時速500km、40分で走るリニア新幹線は2025年に開通する予定である。筆者も是非それまで元気でいて体験したいものだと思った。省エネの観点では、その他に超伝導線による電力網も米国では実用化されているということで、超伝導はこれからの省エネルギーの時代に不可欠な科学技術である。

本筋とはずれるが、聞くと見るとは大違いで、マイナス200℃の超低温(それでも超伝導にとっては‘高温’だそうだが)である液体窒素をスーパーマーケットで肉を載せている発泡スチロール容器にジャブジャブと注いでおいても蒸発せず随分長持ちすることや、ちょっと指で触っても特に冷たくもないことに驚いた人も多かったのではないだろうか。ついでの実験で、酸素を入れた風船を液体窒素の中に入れると、酸素が瞬時に液化して風船がしぼみ中に液がたまるのも大変印象的だった。残念ながら会場の照明の色のために、液体酸素が‘青い’ということは体験できなかったが。

聴衆の一番前の席に好奇心旺盛な少年がおり、デモンストレーションの低温物質に下手に触ると危ないのではないかと筆者はやきもきしていたが、実はそう危なくないので演者は余裕綽々であったということが最後になって分かった。子供から大人まで楽しめる今回の話題であった。

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