開催報告(第67回)

自然の芸術:結晶の美しさと対称性

講師 : 青柳 忍
日時 : 2012年7月20日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


サイエンスカフェ初登場の青柳忍氏に、結晶特有の対称性や性質についてお話をして頂きました。あいにくの雨天にも関わらず、多くの参加者があり盛況でした。

最初に身近な結晶の例として、雪の結晶に関するお話がありました。雪の結晶の形状は対称的で美しく、かつ多様です。雪の結晶は自然の造形物ですが、自然の条件を再現することで、人工的にもつくることができます。世界で初めて人工的な雪の結晶成長に成功した中谷宇吉郎先生について紹介がありました。

次に結晶成長の例として、尿素などの結晶成長の実験結果が示されました。参加者全員に尿素溶液と尿素粉末を入れた二つの小瓶が配布されました。その場で尿素の結晶成長を試された参加者の方々は、講演中にゆっくりと成長していく尿素の結晶の様子を、興味深く観察されていました。

多様な結晶の形状が示されたのち、結晶の形状としてどのようなものが可能なのかについて、2次元と3次元に分けて説明がありました。専門用語を交えつつ、家紋や折り紙で作った多角形などを用いて行われた対称性に関する解説は興味深いものでした。5回対称を持つ結晶は存在しないこと、右と左の区別のある結晶があることなども紹介されました。

続いて結晶の形状が何によって決定されるのかについて、歴史的な話を交えた説明がありました。結晶の幾何学的形状は、結晶が単位格子と呼ばれる小さなユニットの繰り返しでできていると考えると、うまく説明ができます。ブロックやタイル、着物の模様や絵画などと対比した説明は、単位格子の概念を理解するのに効果的でした。

講演中に休憩がてら、水晶玉とガラス玉を見分けるゲームも行われました。水晶とガラスはどちらも主成分はSiO2ですが、結晶と非晶質という大きな違いがあります。肉眼での観察では、水晶玉とガラス玉を見分けるのはとても困難でした。それに対して、偏光板を使うことで、水晶玉とガラス玉が容易に見分けられることが実演されました。水晶は、通過する光の偏光状態を、複屈折という現象によって変化させますが、ガラスではそのようなことは起きません。直交する2枚の偏光板の間に並べて置いた水晶玉とガラス玉を観察することで、この違いを実感することができました。

水晶とガラスは、X線を用いることでもはっきり判別することができます。ハンカチと回折格子によるレーザー光の回折現象を実演することで、結晶によるX線の回折現象の説明が行われました。結晶によるX線の回折現象が発見されてから、今年でちょうど100年になります。この100年の間に、X線の回折現象を利用してなされた様々な重要な発見のうち、いくつかの例が最後に紹介されました。

我々が結晶に惹かれる最大の理由は、結晶の形状や内部構造に見られる規則性や対称性にあり、だからこそ、我々は無意識あるいは意識的にその規則性や対称性を布や絵画のデザインに利用してきたのだなと思いました。また、物質の内部構造が、屈折や回折といった物理現象と密接に関係していることに驚きを感じたサイエンスカフェでした。

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