開催報告(第69回)

遺伝子から見たヒトの進化

講師 : 能登原 盛弘
日時 : 2012年9月21日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


最初に「地球の歴史は地殻の層にあり、すべての生物の歴史は染色体にきざまれている」という遺伝学者 木原均先生の言葉が紹介された。続いて、ヒトの染色体、DNAの構造と遺伝暗号、転写と翻訳、突然変異、最近良く使われるゲノムの概念など分子遺伝学の基礎知識の説明があり、生物進化の歴史は染色体・遺伝子の中に刻まれていることが説明された。

次に、ミトコンドリアを用いたヒトの系図で、1987年にNatureに発表され話題を呼んだミトコンドリアイヴの話があった。様々な人種の100人以上のヒトのミトコンドリア遺伝子を比較しその系図を辿ってみると、20万年ほど前の一人の女性のミトコンドリア遺伝子を祖先にもつこと、さらにこの発見により、現在の全世界のヒト(ホモ・サピエンス)の起源は10万年程前にアフリカを脱出し世界へ広がっていったというアフリカ単一起源説によって説明されるようになったことが紹介された。ただし、非常に最近になって、ネアンデルタール人のゲノム、さらにネアンデルタール人と類縁のデニソワ人の遺伝子配列も解析され、アフリカを除く現代人のゲノムの中にネアンデルタール人あるいはデニソワ人の遺伝子が数%混ざっているという論文がScience誌などに発表され、ヒトがアフリカから広がっていく中でネアンデルタール人などと交雑があった可能性があることが紹介された。

さらにヒトの遺伝子配列において個人個人で異なる塩基サイト(SNP)について説明があり、その例として下戸遺伝子としてよく知られているALDH2遺伝子の多型や牛乳を飲める人と飲めない人がいるラクターゼ遺伝子の多型について紹介された。会場の参加者にも、お酒を全く飲めない人、牛乳を飲めない人などもかなりおられることが分かった。最後に色覚遺伝子と嗅覚遺伝子の進化の話題について紹介され、視覚のメカニズム、哺乳類は中生代に夜行性だったため嗅覚が発達し、逆に視覚は遺伝子の消失により二色視になったことや、ヒトを含む類人猿や旧世界猿が三色視を獲得した理由とそれに伴い嗅覚遺伝子が消失したことについて説明された。遺伝子に関する報道やゲノムという言葉も最近良く使われるようになり、一般の人々にも遺伝子やDNAという言葉はかなり馴染みになってきたと思われる。ヒトの進化を遺伝子レベルから見た最近のホットな話題の紹介であったが、会場からも様々な質問があり、ヒトの進化について考える良い機会となった。

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