開催報告(第70回)

不思議な遺伝子ワールドへようこそ!
  〜遺伝子の基礎から癌化、老化まで〜

講師 : 島田 緑
日時 : 2012年10月19日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


第70回サイエンスカフェは、10月19日に栄の7thカフェで開催されました。「不思議な遺伝子ワールドへようこそ!〜遺伝子の基礎から癌化、老化まで〜」というタイトルで、40名の方が参加されました。

まず、一枚の「受精卵」の写真が登場し、サイエンスカフェが始まりました。私達の体は約60兆個の細胞からできていますが、もとはたった1個の受精卵です。この受精卵が分裂を繰り返し、皮膚細胞や筋肉細胞、神経細胞など、さまざまな種類の細胞へと分化していき、複雑な体ができあがります。一旦分化した細胞からもとの受精卵のような何にでもなれる万能細胞を作り出すことはこれまで不可能だと考えられていましたが、2006年にこの常識が覆されました。ここから2012年のノーベル生理医学賞で世界の注目を浴びているiPS細胞の話に進み、同時受賞したガードン博士のオタマジャクシのクローン作製の研究からクローン生物へと話は展開していきました。会場からは「ヒトが持つ約2万5000個の遺伝子の中からどのように4つの遺伝子を選んでiPS細胞を作り出したのか?」「オタマジャクシのクローンが作製されてからiPS細胞が誕生するまでの過程は?」など、いろいろな質問が活発に出ていました。

iPS細胞の話から遺伝子の基礎、細胞分裂およびDNA損傷に応答するしくみ、がんや老化の話が次々と繰り広げられました。遺伝情報が正しく伝わらないと正常な個体にまでならないので、細胞分裂の過程では遺伝情報を正確に保持することが重要です。ではどんなしくみがあるのでしょうか。このような問いから始まり、「遺伝子とは?」「DNAとは?」「染色体とは?」という基礎からDNAの損傷応答や細胞分裂について分かりやすく話されました。分化した細胞と受精卵が持っている遺伝情報は同じだそうですが、発現している遺伝子が異なるために見かけも働きも違う細胞に出来上がるそうです。遺伝子の発現パターンはDNAやヒストンの修飾である「エピジェネティクス」によって決められています。DNAやヒストンにさまざまな「目印」がつくと、巻き付いていたDNAがほどかれたり、遺伝子の発現調節を行うタンパク質が呼び込まれたりします。エピジェネティクスの例として、一卵性双生児の話や分化した細胞における遺伝子発現の違いなどが説明されました。会場からは「DNA上で『目印』がつく場所はどのように決まっているのか?」「発生段階のいつ頃から個々の細胞のエピジェネティクス情報が変化してくるのか?」などの質問がありました。

数年前にノーベル賞で注目されたオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質や、そのタンパク質を改良してできた蛍光タンパク質を使って、細胞増殖の様子を可視化することができるそうです。この技術はがんや発生の分野で特に重要で、今回、カラフルな蛍光タンパク質で標識された細胞の動画を見ることができました。また、私達のDNAには日常的にさまざまな傷が入っていることにも驚きました。DNA損傷を引き起こす要因としては、紫外線、放射線、食品中の変異原物質、活性酸素など、さまざまなものがあります。遺伝情報を維持するためには、それらに適切に対応するしくみが重要であり、それぞれの損傷に対して修復機構がきちんと働いています。適切に対応するしくみのおかげでがん化や老化が防がれているそうです。会場からは「そんなに頻繁にDNAに損傷が入っているとは心配です」という意見がありました。

講演の途中には研究室の風景や実際に使っている機械の写真も紹介され、「こんなふうに研究しているのか!」と研究を身近に感じることができました。質問がたくさん飛び交い、会場全体が盛り上がった、楽しいサイエンスカフェでした。中でも他都道府県から参加された高等専門学校の学生さんが「遺伝子の基礎から最先端の話まで聞けてよかった〜」と満面の笑みで帰られる姿が印象的でした。CBCの取材もあり、サイエンスの面白さをたくさんの方に知ってもらえる良い機会になりました。

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