開催報告(第72回)

分光計測で何がわかるか
  〜光を色、時間、方向で分ける〜

講師 : 渡邉 凖
日時 : 2012年12月21日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


今回は大きな失敗を三つもしてしまい、報告も気が進みませんが、やむを得ません、失敗の内容から報告します。第一に、簡易分光器に貼り付ける回折格子フィルムの選択を誤り、波長読み取りの目安になるピンホールが全く役に立たなくなってしまいました。当日の午前中に気づいたのですが、当然間に合いませんでした。第二に、スライドの最終版を家に置き忘れ、手元にはVer.0とでもいうものしかありませんでした。第三に、マジックのための器具が嵩張りすぎて持参できず、マジックを一つ省略せざるを得ませんでした。

「分光計測で何がわかるか〜光を色、時間、方向で分ける〜」とのタイトルでしたが、「分光学で遊ぼう」に変更しますと断って話を始めました。少しびっくりというようなものを見せてお話することに留意しました。

まず二股分岐の特殊な光ファイバー束を用いて二色の光を混合し、白色に見えるようにした仕掛けをご覧に入れました。光の三原色といわれる色ではない青緑と橙色の二色で白色に見えることに多くの方が驚かれたようです。また、一見鏡のように見えるガラス板(実際は干渉フィルターですが)を通すとペンライトが青緑や橙色に見えることも不思議な感じを与えたようです。人間の眼が騙されやすいので、分光機器が必要であるとして配布した簡易分光器で会場の蛍光灯を観察してもらいました。回折格子の分散が大きすぎて見づらく目盛り代わりのピンホールが全く役に立たなかったのは残念でした。電球のように見える蛍光灯であることは、普及が進んでいることもあるのか、大きな驚きではありませんでしたが、線スペクトルが見えて納得されたようです。色で分けることに必要な器具として、お馴染みのプリズム、主流である回折格子、鏡のように見える干渉フィルターを挙げ、特に高い分解能を持つファブリペロー干渉計は写真で紹介しました。

次に色で分けるといっても、波長を考える場合と、波数を考える場合があり、光のエネルギーが問題となるときは、波数表示が普通であることをお話ししました。例として蛍光分析の際、散乱光が励起波長によって大きく変動することを示す実験データを表示しました。

吸収スペクトルから分かる事柄として、加水分解により吸収スペクトルが変化するが等吸収点が存在する例をあげ、反応の前後で物質の総量が不変であることが分かることを説明しました。ムラサキキャベツの測定データを示せなかったのは残念なことでした。

先に配布した簡易分光器で会場の白熱電球のように見える照明器具を観察して貰い、虹の七色だけではなく、数本の輝線が存在することを確認して頂いたのは、照明器具は実は蛍光灯であり、七色の連続スペクトルは蛍光物質の、輝線は水銀ともう一種の物質による発光であること、物質固有の発光スペクトルを測定することによって、恒星等の離れた場所での元素の存在、恒星の後退速度、温度、磁場の強さ等もわかることをお話ししました。輝線スペクトルは発光している原子分子の指紋のようなものであることをお話ししました。

太陽光のスペクトル写真を映して、暗線(フラウンホーファー線)が存在することを指摘、太陽大気中の元素による吸収であること、これによって新元素が太陽大気中に発見され、太陽にちなんでヘリウムと命名された後、地球上でも発見されたことをお話ししました。

トンネル内部の照明によく使われている大型ナトリウムランプを点灯し、簡易分光器で黄色の輝線スペクトルが一本だけ見えることを確認して貰いました。実際にはスタート時には水銀の輝線スペクトルも薄く見えるのですが、誘導にも拘わらず、小学生が輝線スペクトルの存在を指摘したのには驚きました。最後にナトリウム炎を点火し、ナトリウムランプと同じ色であることを見て貰った後、ナトリウムランプの前のナトリウム炎が黒い炎に見えるというマジックを披露しました。これが吸収スペクトルの現れであること、黒いということは、黒いものがあるとは限らず、周りより暗ければ黒く見えること、太陽の黒点と同じ意味での黒い炎であること、と種明かしをしました。

この後休憩に入りましたが、その間も金環日食の際の注意に関連するのかもしれませんが、簡易分光器で太陽を直接見ても大丈夫かなどの質問が相次ぎました。 休憩の後、「光を時間で分ける〜高速分光」のお話をしました。高速時間分解測光に使用する機器を三種紹介しました。高速現象追跡の原理として、繰り返し現象は周期をずらせてサンプリングすれば、全波形を観測出来ると云うことを説明するために、ストロボスコープを用いてさかのぼる噴水のマジックができなかったのが三番目の残念な点でした。

時間が超過しそうになったので、最後の「光を方向で分ける〜偏光測定」の話は簡単にして、偏光板を用いた遊びを紹介することにしました。まず、偏光板を用いたマジック・ボックスの披露を行いました。木箱の両脇に開けた窓から、内部に黒い膜が張ってあるように見えるけれど、手袋をはめた手が自由に通過できるというものです。このマジック・ボックスの小型のものを作れるよう、偏光板と作り方の解説を配布しました。このマジック・ボックスもかなり不思議だったらしく、後で多くの人が実際に中には何もないことを確認にみえました。最後に、無色のセロファンを重ねたものを偏光板で挟み、偏光板を回転させると色づきが様々に変わることなどを紹介して終わりとしました。

渡邉 凖(名古屋市立大学システム大学院自然科学研究科)

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