開催報告(第87回)

海底掘削から見えてきた生物多様性進化

講師 : 須藤 斎(名古屋大学准教授 / 専門:地質学・層位 古生物学・古環境学)
日時 : 2014年5月16日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


今月のカフェの講師は、名古屋大学大学院環境学研究科准教授の須藤斎先生。顕微鏡を使って観察ができる珪藻という微生物化石の研究者です。海底掘削の国際プロジェクトに関わっておられるということで、地球に残された未知の世界である地下世界への探検の話をたっぷり聞かせて頂けると期待しました。また、須藤先生は「0.1ミリのタイムマシン(くもん出版、2008年)」という一般向けの本も書いておられ、産経児童出版文化賞を受賞されています。難しい御研究の話もきっと分かりやすくお話下さるのではと期待しました。


須藤先生のトークは期待通り分かりやすく、かつ中身の濃いものでした。先生のトークは、まず化石とは何かということから始まり、珪藻の生活史や生態系での役割を説明されました。次に、世界中から選りすぐられた研究者とともに海底掘削船に何ヶ月も乗船し、海底からくり抜かれたコアと呼ばれる岩石中の珪藻化石を分析した御研究が紹介されました。北極の海底から採取されたコアの分析からは、なんと4600万年も前から北極に氷河が張っていた証拠が出てきたそうです。コアの中に粒度の大きい石を探したり、氷河の裏に付着する性質のある珪藻の化石を探したりすることで、この重要な結論にたどり着いたとのこと。まさに犯罪捜査のようでワクワクしました。

珪藻という植物プランクトンは海洋一次生産の重要な担い手であり、とりわけ須藤先生が注目するキートケロス属の一次生産量は、沿岸湧昇域で行われる光合成量の20-25%をも占めるそうです。須藤先生は、このキートケロス属珪藻の休眠胞子の化石を分類学的に研究し、多数の新種を記載されました。さらに御研究を進めたところ、約3370万年前にこのキートケロス属という珪藻の種類が爆発的に増加したことが分かったそうです。この時期は、南極周回海流が成立して極域が寒冷化するとともに、地球規模での海洋深層水の大循環が成立したタイミングにあたります。このとき海洋では湧昇域が増加し、その環境に合ったキートケロス属が適応放散を起こしたのだろう、それがひいては食物連鎖の上位にあたるオキアミなどの浮遊性小型動物、さらにはクジラ類などの大型動物の進化を促したのではないか。これが須藤先生の壮大な仮説です。

顕微鏡下に映る珪藻化石が持つ幾何学的模様の不思議な美しさに見とれながら、あっという間に2時間が経過しました。専門的な事柄も分かりやすくお話し下さり、参加者の皆さんも満足顔で帰られました。

熊澤 慶伯(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

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