開催報告(第90回)

渋滞はなぜ発生するか?
~その物理的しくみ~

講師 : 杉山 雄規(名古屋大学教授 / 専門:数理物理学・場の理論)
日時 : 2014年8月22日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


 高速道路で渋滞に遭遇するのは日常的なことで当たり前になっています。特に帰省ラッシュ時の何十kmにもおよぶ渋滞はしばしばニュースとなります。でも、なぜ渋滞は発生するのでしょうか? 今回のサイエンスカフェは、その原因を明らかにした名古屋大学の杉山先生に、「渋滞はなぜ発生するのか?−その物理的しくみ−」という題目でお話ししていただきました。

 高速道路の渋滞の発生は、道路に埋め込まれたループコイルによってリアルタイムに検知されています。このデータから分かる渋滞の特徴は、渋滞箇所が車の進行方向と逆向きにおよそ20 km/hで進むこと、そして車両密度が約25台/kmまでは自由走行なのですが、そこを超えた途端に渋滞が発生することです。どの国の高速道路でも、ほぼ同じ結果です。

 次に渋滞が発生するメカニズムを、運転手が前方の車との車間距離と自車の速度によって車を加速するか減速するかを判断することと考え、それを方程式にしてシミュレーションした結果が紹介されました。車間距離が短ければ減速し、長ければ加速するという単純な方程式ですが、車の密度が小さい時はスムーズにながれていても、混んでくると渋滞が発生することを見事に再現していました。さらに、もっと密度が上がると等間隔に走ることも再現します。この結果を実証するために、杉山先生らによって世界で初めて行われた実車による実験のビデオが披露されました。この実証実験は世界中の多くのメディアに取り上げられました。

 この理論によると、車のレスポンスが充分に良ければ、渋滞が発生する車両密度を超えても等間隔走行(渋滞でない)することも可能です。しかし実際の車は質量を持つので、そうはなりません。また重要な点は、等間隔走行のほうが渋滞が発生した場合よりも全体的な流量が落ちることです。これは、到着するまでの時間を考えると渋滞は必ずしも悪くないという、長距離運転手が経験的に知っている事実を裏付けるものでした。

 ある物理量がある値を超えると全体の様子が大きく変わることを、物理では相転移と言います。0℃で氷が水に、100℃で水が水蒸気に変わる現象も相転移の一種です。渋滞の発生も、車の密度25台/kmを境とする相転移なのです。同様のことは、粉粒体や生物集団の動きなど、自然界のあらゆるところで発生していることが紹介されました。

 みんなが経験しながら科学的な理由がはっきりしなかった渋滞の原因を、データやシミュレーション、ビデオなどを使ってわかりやすく丁寧に説明していただき、2時間はあっという間に過ぎました。質問を受ける時間がわずかになってしまったことは残念でしたが、みなさん、内容には満足しておられたようでした。


徳光 昭夫(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

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