開催報告(第92回)

水が凍ると熱が出る?
〜身近な物質,その結晶化の不思議〜

講師 : 三浦 均(名古屋市立大学システム自然科学研究科・准教授 / 専門:惑星科学・結晶成長学)
日時 : 2014年10月17日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


 自然界には,様々な形の結晶が存在します。中には,雪の結晶のように,同じく「水分子」という物質から作られていながら,ひとつひとつが異なる形をしている結晶もあります。なぜ,結晶の形にこのような多様性が生じるのでしょうか? これには,水が氷になるときに放出される熱エネルギー,すなわち「結晶化潜熱」が,大きな役割を果たしています。今回のサイエンスカフェでは,「結晶の形」と「結晶化潜熱」との関わりについて紹介させて頂きました。

 まず,「結晶化潜熱」の効果を無視した場合に,結晶がどのような形になるべきかについて,その基礎理論を紹介しました。成長する結晶の形は,それがどのような「速さ」で成長しているかによって決まります。例えば,球の形をした結晶が,全ての方向に同じ「速さ」で成長すれば,球の形がそのまま大きくなっていくでしょう。しかし,結晶の場合は,結晶の成長速度が面の向きによって大きく異なります。すると,結晶の成長と共に,成長の遅い面が他の面の成長に取り残されてしまいます。結果として,結晶の形は,成長の遅い面で囲まれた「多面体」となるはずです。

 しかし,自然界には「多面体」とは異なる形の結晶が存在します。雪に見られる樹枝状結晶などです。なぜ,結晶の形が多面体にならないのか? その理由のひとつが,「結晶化潜熱の発生による温度差」です。結晶の成長に伴って潜熱が放出されると,結晶の周囲の温度が変化します。この温度の変化が,結晶の成長速度の違いを産み出し,結果として「多面体」の形が崩れてしまうのです。スライドでは,結晶化潜熱の放出による温度変化を考慮した数値シミュレーションを紹介し,「多面体結晶」から「樹枝状結晶」へと変化する様子を動画で分かりやすく示しました。結晶化潜熱の発生によって結晶の形が大きく変わってしまう様子に,参加者の皆さんも驚かれた様子でした。

 実際に,結晶化潜熱が発生する瞬間を見て頂くために,会場では水滴の結晶化実験を実演しました。2台の液晶プロジェクタの片方には水滴の様子を映し,もう片方には水滴温度の測定値を映し出すことで,水滴が結晶化した瞬間の温度変化が一目瞭然になるように工夫しての実験です。ペルチェ素子を使って水滴を一気に冷却すると,水滴は0℃になっても凍ることはなく,氷点下10℃程度まで液体の状態を保ち続けました(これを過冷却状態といいます)。皆さんが固唾を飲んで見守っていると,水滴が突然結晶化し,その瞬間水滴の温度が数℃上昇したことが示されました。「水が凍ると熱が出る」,それが示された瞬間,会場からは驚きの声が聞こえました。

 「結晶化潜熱の発生」によって「結晶の形の多様性」が生まれる物理的な理由を,実験や数値シミュレーション動画を使って紹介させて頂きました。中には少し難しい話題もあったかと思いますが,会場の皆さんが大きくうなずきながら,そして活発に質問をしながら聴いて下さったため,私も楽しくお話しをすることができました。今回のサイエンスカフェが,身近な結晶の形について思いを巡らせるきっかけになれば幸いです。


三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

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