開催報告(第103回)

ロケットのお話

講師 : 大崎 博史 氏(三菱重工業(株) 宇宙事業部 / 専門:電気・電子工学)
日時 : 2015年9月18日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


 最近の宇宙ステーション補給機「こうのとり」5号打ち上げ成功や日本人宇宙飛行士の油井さんによりその「こうのとり」が国際宇宙ステーション(ISS)に結合されたことなどから宇宙開発の関心が高まっています。今回のサイエンスカフェは、その宇宙開発の根幹となるロケットの開発・打上げに直接携わっていらっしゃる三菱重工宇宙事業部の大崎さんをお招きしてロケットのお話をしていただきました。

 はじめに、日本の宇宙開発に関わる多くの企業は名古屋市とその周囲にあることが示された後に、ロケットエンジンの原理についてジェットエンジンと比較して説明がありました。また、ロケットを使って人工衛星をISS(軌道高度400 km)など地球周回軌道や気象観測衛星「ひまわり」(軌道高度36000 km)など静止軌道に乗せる手順を説明していただきました。

 次に、ロケットの開発の歴史について話していただきました。古くはロケット花火のような武器が紀元1000年頃に使われましたが本格的なロケットといえるようなものは第二次世界大戦で使われたV2ロケットが最初であること、冷戦下の1950年代にソ連によって人類初の人工衛星スプートニクが打上げられそれに続いて米国も人工衛星エクスプローラーを打ち上げ宇宙開発競争が始まったこと、日本のロケット開発は東大の糸川英夫先生のペンシルロケット実験から始まり小惑星探査機「はやぶさ」を打上げた旧宇宙科学研究所(ISAS)の固体燃料ロケットM-Vロケットに進展したことなどが話されました。また、液体燃料ロケットの開発は旧宇宙開発事業団(NASDA)の主導で米国から技術を導入して開発(N-1ロケット)が始められ徐々に国産化率が高められH-2ロケットでほぼ完全に国産化されたこと、打上げコストを低減させた後継機のH-2A/Bロケットは既に33機(H-2Aが28機、H-2Bが5機)打上げられ、世界でもトップレベルの信頼性を有するロケットとなったことなどが話されました。さらにH-2ロケットエンジンの高度な構造、燃料タンクの配置などについて少し詳しい話もありました。

 続いて、H2A/Bロケットの製造や打上げの運用に関するお話がありました。1つの打上げミッションのためには3年前からロケットの設計を開始し、1年前から製造に着手し、数ヶ月前から種子島宇宙センターの大型ロケット組立棟で名古屋の工場などから運ばれた各部品を組立・整備・点検するそうです。その後打上げ直前に、巨大な台車(移動装置)によってH-2Aロケットは第1発射点にH-2Bは第2発射点に移送させられ、発射十数時間前から燃料を充填されて天候や機器等(点検項目500〜600点)の問題がなければ予定通りの打上げとなるそうです。最近よく問題になるのは天候だそうです。打上げ行路に積乱雲などがあると種子島が晴れていても打上げが延期されるそうです。打上げの運用に長年関わって来られた講師の大崎さんは発射管制棟が発射点から数100 m離れた地下で仕事をされるため打上げの様子を直接見たことがないことや打上げの運用は衛星の軌道投入だけでなく2段目のロケットを安全に後処理をする作業などしているなど現場の人でないと話せないエピソードを交えて、打上げ時の運用の様子が披露されました。ロケットの製造に関して、燃料タンクは軽量化のために強度を保って軽量化を実現するためにアルミブロックを薄く削りだしたものをたくさん溶接して作成すること、ロケットの外装断熱材はポリイソシアヌレートフォームであることなどが説明されました。ポリイソシアヌレートフォームはもともと白色であるが空気中で時間が経つと徐々にオレンジ色になるため、H-2ロケットの色がオレンジ色なのは塗料の色でなく時間経過による変色であるエピソードも披露していただきました。参加者のみなさんは興味津々でした。

 宇宙開発機構(JAXA)と共同で行う新しいロケット開発であるH-3ロケット開発計画の概要もお話していただきました。既に説明あったようにH-2A/Bロケットは世界トップレベルの打上げ成功率を持つだけでなくオンタイム打上げ率も高いが、打上げコストは他国のロケットに比べるとかなり高く受注が少なく商業的に非常に不利な状況にあり、低コスト化が問題だそうです。それに加えて、ロケット開発はそう頻繁に行われるわけでなく、H-2ロケットの基本的な開発からはずいぶん時間が経っているため、技術の継承とか次世代技術者の育成なども問題だそうです。これらの解決を目指して、2020年に1号機(試験機)の打上げる予定でH-3ロケットの開発が既に始まっているそうです。組立・整備・点検など打上げに必要期間の短縮や必要人員の低減だけでなく、エンジンの構造をできるだけシンプルにして信頼性の向上と低コストを目指すそうです。使用部品を特注品だけでなく民生品も使ったりするそうです。また、補助エンジン(ブースター)の構成に柔軟性を持たせて人工衛星の広い打上げ重量レンジを実現し、打上げ依頼者に対して利便性を高めることも目指しているそうです。

 最後に、名古屋地区で宇宙開発に関わっている拠点の紹介や名古屋市科学館に展示されているH-2ロケットの展示の見どころの紹介の後に、最近作成された三菱重工の衛星の打上げ輸送サービスの動画を披露される予定でしたが、PC(?)の調子がよくなくその場では再生できなかったので、webページ(http://h2a.mhi.co.jp/index.html)の動画を是非見ていただきたいとのことでした。

 講演は1回の休憩を挟んで行われましたが、参加者のみなさんのロケットへの関心は非常に高かったようです。休憩の前や講演終わりの2回の質問タイムに多くの質問があっただけでなく、休憩時間や講演後にも多くの参加者の方が講師の大崎さんを囲んで熱心に質問されていました。



付録:名古屋市科学館のH-2ロケット展示の見どころ

名古屋科学館には、ロケットの以下の構成品(過去の開発残品)が展示されています。
  1. 第1段エンジン部
  2. 第1段燃料タンク
  3. 第1段中央部
  4. 段間アダプター
  5. フェアリング
  6. LE-7エンジン
第一段エンジン部のフレームの端に、穴が沢山空いてます
 ⇒ロケットに燃料を入れる配管、電気の配線が通る場所です。

フェアリングにスライド式の窓と突起が見られます
 ⇒スライド式の窓:空調ダクトの為の入り口です。(打ち上げ後に閉まります)
  突起:HTVのスラスタ収まる部分になります。
     スラスタは90度ごとに4個あるので
     フェアリングにも同じでっぱりが4か所あります

LE-7エンジン
 ⇒当日はスライドで説明できませんでしたが、
  ノズルスカートの表面をよく見ると、沢山の凹凸があります。
  凹凸は、液体水素が通る配管です。

 展示品のいくつかには、銘版と呼ばれる、金属製の製品識別用のタグがついています。銘版には、部品番号、シリアル番号等が記載されています。一度探してみてください。

杉谷 光司(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

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