開催報告(第106回)

ゲノムの話:98%はガラクタなのか?

講師 : 中山 潤一 氏(名古屋市立大学システム自然科学研究科・教授 / 専門:分子生物学、エピジェネティクス、染色体動態)
日時 : 2016年01月15日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


 私たちがそれぞれの親から受け渡されたすべてのDNAはゲノムと呼ばれます。今回のサイエンスカフェでは、ゲノムに関わる話題を提供して、遺伝子や染色体、タンパク質や疾患との関連について紹介しました。

 まず始めに、ゲノムという言葉の由来となった「遺伝子」と「染色体」について説明し、その後でゲノムの定義について説明しました。ゲノムという言葉をきちんと理解することで、新しい生物のゲノム解読、遺伝子診断、オーダーメイド医療などのニュースが理解できるようになると紹介しました。

 次に、ゲノムの大きさと生物の複雑さに相関があるのか? という問題について説明しました。一見すると、複雑な生物ほどゲノムサイズが大きくなるように思われますが、実際には単純な生物でも大きなゲノムを持つ生物がいたりして、 単純な相関は見られません。また、ヒトゲノムが解読されて、ヒトの持つ遺伝子の数が線虫のような単純な生物とほとんど変わらない事実が明らかにされました。少なくともヒトは知能を発達させ文明を作り上げたことからも、複雑で特別な生物だと考えられますが、ゲノムのサイズから見ても遺伝子の数から見てもその特殊性は説明できません。いったい何がヒトという生物を特殊にしているのでしょうか?

 遺伝子の重要なはたらきは、私たちの体をつくり生命活動を可能にする「タンパク質」をつくり出すことです。ヒトゲノムの解読から分かったことは、私たちのゲノムの中でタンパク質をコードしているDNAの割合は圧倒的に少なく、たった2%しかないことでした。残りは役に立たないガラクタとして、当初は「ジャンクDNA」と呼ばれていました。しかし、最近の解析からこの「ジャンクDNA」の中に、ヒトの特殊性を説明する秘密が隠されていることが分かってきました。例えばイントロンは限られた数の遺伝子から多くの種類のタンパク質をつくり出すのに貢献し、テロメアと呼ばれる単純な反復配列は染色体の端を保護し、 細胞や個体の寿命を示す時計として働いています。ヒトの進化の過程ではレトロウィルスのような配列がゲノムのあちこちに挿入され、現在では化石のように静かにしながら遺伝子の発現調節を行っています。また、これらのジャンクDNAの異常が原因で引き起こされる様々な疾患について紹介し、ジャンクDNAの重要性を紹介しました。本講演を聴いて、ゲノムというものが身近に感じられるようになったと思います。

 今回のサイエンスカフェでは70名近い方に参加していただき、ゲノムに対する皆さんの関心の高さが窺えました。話題ごとに話を中断して、その都度参加者に質問をしてもらうという工夫をしたため、活発な質問が多数受けられたのはとても良かったと思います。質問は遺伝子、染色体、タンパク質、遺伝子組換え生物、最新技術を使った遺伝子治療にいたるまで多岐に渡り、ゲノムをキーワードに様々な話題を提供できて良かったのではないかと思います。


中山 潤一(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

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