開催報告(第107回)

数学における右手と左手

講師 : 平澤 美可三 氏(名古屋工業大学・教授 / 専門:トポロジー、結び目理論)
日時 : 2016年03月18日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


 右手系と左手系とは自然科学のなかでも大切な概念です。例えば化学物質の光学異性体の問題は右手系と左手系の違いでありとても重要です。多くの方が記憶に残しているサリドマイドによる大きな薬害は光学異性体の違いによって引き起こされました。今回は右手系と左手系の違いについて数学におけるトポロジーに関連した話題を紹介しました。数学の一分野であるトポロジーは「柔らかい図形を扱う幾何学」です。メビウスの帯などの裏表のない曲面や結び目などの図形も数学的に解析する分野です。

 メビウスの帯や、結び目にしても右手系と左手系が存在します。まず、紐の結び目を使って、右手系、左手系の問題を考えました。結ぶ手順を考え、様々な結び目を参加者の方達と作りました。その中には、鏡像に向かって切ったり繋いだりせずに変形できるものと、そうはできないものがあることを紹介しました。

 実際に移り合うかどうかは結び目を変形していくだけではわかりません。何回か変形して移り合えば結果はわかるのですが、例えば1000回変形して移り合わなかったからといって移り合わないと結論付けることはできません。鏡像とは一致しない(カイラルである)ということを証明する理論があることを伝え、その性質を推測してもらいました。

 メビウスの帯にも右手系、左手系が存在します。それらの違いは、単独に見ていては中々実感できませんそこで、事前に作成しておいた、二つのメビウスの帯を繋いだものを配布し、各自がハサミで切ってみました。すると、右左の問題が直接目に見える形で出現し、参加の皆さんも驚かれた様子です。そこからまた、結び目のカイラリティーの問題に繋ぎ、カイラルか、カイラルでないか、どちらの結び目が生じるかについて理論的に推論できる状況を紹介しました。それは難しかったかも知れませんが、結び目やメビウスの帯を使って、手も動かしたことで、様々な質問やコメントが飛び交い、会場が盛り上がりました。

 結び目やメビウスで盛り上がったため、多面体の話題については少ししか言及することができませんでしたが、カイラルな準正多面体やフラーレンの模型も用意して、右手、左手の問題を紹介しました。最後には発展した話題として、ぐるっと旅してくると右手が左手になってしまっているような宇宙のモデルも紹介しました。

 今回のサイエンスカフェでは50名もの方に参加していただき,多くの質問が飛び交いました。実際に紐を使って結び目を作っていただいたり,メビウスの帯を使って実習を行いました。 数学は多くの科学的な現実からルールを見つけ出して概念を広げて理論を確立していきます。その基本にあるものを実感していいただけたのではないかと思います。


鎌田 直子(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)
平澤 美可三(名古屋工業大学大学院工学研究科)

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