開催報告(第114回)

動物の不思議
〜特殊機能の進化〜

講師 : 熊澤 慶伯 氏(名古屋市立大学システム自然科学研究科・教授 / 専門:動物系統進化学)
日時 : 2016年10月21日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)


 我々ヒトは、分類学的には脊椎動物亜門に属する7万種弱の一員です。しかし、いまやヒトの人口は爆発的に増加し、その活動によって地球環境を持続的に維持することが困難になってきています。ヒトの知能は恐るべしですが、私たちの周りの動物に目を向けると、私たちには到底及ばないような驚異的な機能を発揮する動物たちがたくさんいることに気づかされます。そこで、今回のサイエンスカフェでは、爬虫類(主にヘビ類とトカゲ類)が持つ、ヒトには真似できないような機能について紹介しました。

 特殊機能の裏には、それを可能にする特別な構造があります。その構造が長い年月をかけて進化したことで、特殊機能を獲得するに至りました。そうした構造や機能を科学的に解明するのは大変重要なことです。「聴力・視力が発達していないヘビは、どのように餌を捕らえられるか」、「ヤモリが垂直な壁面や天井を歩行できるのはなぜか」、「カメレオンが環境や気分によって体色を瞬時に変えられるメカニズムは何か」、などの疑問に対して近年科学的な解明が進んでいます。そして、その成果を人類に役立てようとする研究も行われています。後者の研究をバイオミメティクス(生体模倣科学)とも言います。しかし残念なことに、そうした模倣研究は戦争兵器の開発などに真っ先に応用されてしまいがちです。一部のヘビ類が持つ赤外線感知器官(ピット器官)の研究が、ミサイルや暗視スコープの開発に繋がってしまったのは、その一例です。私たちは、科学の健全な発展に常に心配りをしなければなりません。

 講演の冒頭で「爬虫類、特にヘビやトカゲが苦手だという方は挙手して下さい」と申したところ、結構な割合(3割くらいだったでしょうか)の方から手が挙りました。私の講演では、ヘビやトカゲの画像や動画が何度も出てくる予定になっていたので、「これは大変なことになった」と若干焦りました。しかし、休憩時間には、持参した爬虫類液浸標本の周りに大勢の方が集まって下さいました。講演終了後の質疑応答でも、活発に質問を投げて下さいました。演者としては、爬虫類が苦手な皆さんのアレルギーが多少なりとも治まったのであれば、望外の喜びであります。皆様、私のカフェにお付き合い下さいまして、どうもありがとうございました。


熊澤 慶伯(名古屋市立大学システム自然科学研究科)

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