開催報告(第123回)

ゲノム編集で外来魚を根絶へ
〜卵を作る遺伝子の働きを抑えて〜

講師 : 岡本 裕之 氏(水産機構 増養殖研究所 グループ長 / 専門:水産育種学)
日時 : 2017年08月25日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

遺伝子組換え技術は、いろいろな食品など私たちの身近なところで目にするようになってきましたが、最近は「ゲノム編集」という新しい技術によってより簡便に特定の遺伝子を改変することが可能となってきました。この技術は、間違いなくこの数年間にノーベル賞を取ると言われるほど、生命科学分野に大きな革命を起こしています。一方で、デザイナーベビーの可能性などSF的な話が、現実的な問題として科学者も一般の人も真剣に考えなくてはいけない時代になってきています。

今回のサイエンスカフェでは、大きな環境的、社会的問題になっている侵略的外来種に対して、最新技術を応用して駆除・根絶しようとする取り組みについて紹介いただきました。

「釣っても釣ってもブルーギル」と言われるほど琵琶湖を初め日本各地で繁殖してしまい、日本固有の生態系に対して猛威をふるうブルーギルに対し、現在行われている捕獲による駆除作業の限界から、岡本氏らは最新技術を用いた新しい手法を提案されました。次世代シークエンサーを用いた「全ゲノム解析」、上記した「ゲノム編集技術」、メスを不妊化させるオスを増産できる「借り腹技術」といった最新技術を活用する、といった話はまさに研究室レベルの先端科学を一般社会に還元することになるのかもしれません。

ただし、こうした取り組みには最新技術だけでなく、自然環境下におけるブルーギルの行動や生態を地道に理解することから、想定外の事態への対応も含めて綿密な実証試験や緻密なシミュレーションを長年にわたって繰り返さなくてはいけません。お金儲けのためでなく、環境保全のために30年かけて外来種の根絶を目指す。そのために、かなりの苦労を重ねて基盤技術を確立し、さらにこれから3年かけて実証実験するための準備を進めるという話を聞くとただただ頭が下がります。

今回の参加者からは、遺伝子組換え技術への懸念や想定外のリスクに対する不安から、費用対効果や企業による独占、知財に対する質問までありました。また、ブルーギルの生態や環境保全の考え方などについても意見交換されました。

環境問題はもちろん新技術への不安を払拭するためにも、一般の人たちの理解と合意が必要不可欠です。そのためにも丁寧に説明して対話することが大切というお話で、サイエンスカフェの話題として非常に良かったのではないかと感じました。


田上 英明(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

[戻る]