開催報告(第124回)

「健康づくり」とは、「生きる」とは

講師 : 髙石 鉄雄 氏(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科・教授 / 専門:運動生理学、バイオメカニクス、健康科学)
日時 : 2017年09月15日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

9月15日(金)、第124回サイエンスカフェが中区栄の7th Cafeにおいて開催され、『「健康づくり」とは、「生きる」とは』というテーマで話題提供を行いました。

近年わが国の平均寿命は男性で81歳、女性では87歳をこえ、生涯自立した生活を維持するには、高齢者の仲間入りをした後もそれなりの努力が必要です。今回の講座ではまず始めに、本日の話の要点として、「健康づくり」に必要なのは、自身が生きていることを身体に伝えるための“ややきつい”と思える運動であることを説明し、それには、5~10分間のウォーミングアップ歩行に続く「早足歩行」、「坂道歩行」、「階段昇(降)」が有効であることを示しました。次に、日本人が亡くなる原因(死因)と要介護に至る原因が何であるかのデータを基に、「健康づくり」の方向性には、①大血管系障害につながる動脈硬化の予防、②自立した日常生活に必須となる起居・移動能力の維持、③認知症の予防の3つがあり、自身の取り組みがその中のどれかにつながって初めて「健康づくり」を進めたことになることを示しました。大血管障害の原因の一番は動脈硬化であることを示した後、頸動脈にできたアテローム性動脈硬化を切開切除する様子、血栓により心室部分に血液が流れないまま拍動を続ける心臓の様子などを動画で紹介し、過食や運動不足に伴う血管内のLDLコレステロール、中性脂肪、血糖の増加などが動脈硬化や血栓の形成につながるメカニズムについて、動画やアニメーションを多用したスライドを用いて詳しく解説しました。

次に、瑞穂区を流れる山崎川堤防沿いを歩いている方々についての血液検査値、歩数、歩行中の心拍数、歩行経路などのデータを順に示し、歩数重視の歩行ではLDLコレステロール値、HDLコレステロール値などに積極的な運動効果が認められないこと、すなわち心拍数予備量(%HRR)の37%程度にすぎないラクラク歩行では血管障害予防のための効果が十分でないことを示しました。更に「少し難しい内容になるけれど重要な点なので頑張って理解して欲しい」と前置きした後、安静状態から疲労困憊まで運動を行った際の酸素摂取量、心拍数、血中乳酸値の変化とその間のエネルギー供給機構、有酸素運動と無酸素運動の違い、乳酸発生の意味など、身体運動について生理学の観点から詳しく説明があり、今回の要点である“いまの運動機能(持久力、筋力)を維持させるには、身体の中の生理的状態を普段とは異なる非常事態にする必要がある”ことを強調しました。そのような状態を作りだす有酸素運動の強さの目安は心拍数予備量の50%、すなわち50%HRRで、これには個人差があるものの、まだ体力に余裕のある高齢者では早歩きや早歩き程度の速さのジョギングを行ってようやくこれに該当すること、一方、脚力の維持や骨密度の維持には無酸素運動が必要で、階段昇降などの立体移動がこれに該当することを動画やアニメーションを使って説明しました。参加者の多くは、自身がこれまで行ってきた運動では不十分であったと認識し、今後どのような運動を取り入れると良いかを理解した様子で、その後の質問タイムでは、自分が行っている運動の是非に関わる質問が参加者の中から複数寄せられました。

第2部では、私の父が86歳にして集合住宅の階段を5階まで一気に上がる様子や老人ホームにいる母の写真を紹介し、わが国の福祉政策はこのままでいいのか、「生きる」とはどういうことなのか、などについて参加者の方々に意見を問う場を設けました。今回の講座では、あらかじめ配っておいた○×の付いたフラッグを使って質問に対する参加者の意見を2択で訊く試みを行ないましたが、「いまの社会福祉制度には問題があり、見直しが必要?」との問いかけには参加者の7割弱が必要と答えました。その後、参加者からは具体的な問題点の指摘、今後の方向性に関わる意見などもあり、今回の講座は、今後の日本の福祉制度のあり方を参加者と一体になって考える良い機会となりました。


髙石 鉄雄(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

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