開催報告(第126回)

加法と乗法が織りなす数の世界

講師 : 河田 成人 氏(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科・教授 / 専門:代数学)
日時 : 2017年11月17日
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

数が持っている大切な性質の一つとして、加法(足し算)と乗法(掛け算)という代数演算があります。加法と乗法について、よく知られている分配法則や結合法則が成り立ちます。これらの法則のおかげで、数の計算はとても使いやすくなっているだけでなく、数学としてより抽象化された概念が派生して深遠な理論が構築されています。今回のサイエンスカフェでは、代数学の理論の一端を紹介させていただくとともに、普段は見慣れない加法と乗法の世界についてお話ししました。

まず、数の概念が拡張されてきた様子を、おおまかに概説しました。数の計算をするにあたって、引き算をするためには自然数の範囲だけで考えていてはとても不自由なので、そのためマイナスの数を含む整数の概念が生まれました。また、割り算をするためには整数の範囲だけでは不便なので、分数(有理数)を作り出されました。このような数の歴史について、連立方程式や2次方程式を中学生に戻った気持ちで計算をしながら説明しました。マイナスの数や逆数の概念はとても重要なものであり、逆数を持つような数の体系は抽象化されて、現代数学では「体」という普遍的な概念として大切な役割を担っています。実数体や複素数体などは体の典型例です。

次に、整数・有理数・実数という数の広がりとは違った別の方向にも、数の概念の広がりがあることを紹介しました。ある素数に注目して剰余演算を利用すれば、「有限体」を構成できます。有限体は、有限個のシンボル(数)の集まりではあるのですが、加法・乗法という計算ができて、分配法則や結合法則が成り立っています。特筆すべきことに、有限体においては、逆数やマイナスの数の役割を果たすものが既に内在しています(そのため体と呼ばれています)。整数の範囲では逆数がなかったので有理数を作り出す必要があった経緯と比べてみると、有限体は自立した演算の仕組みを持っていると言えるでしょう。この有限体について、具体例を使って剰余演算による加法・乗法の計算方法を説明し、特に逆数はユークリッドの互除法から求められることや、乗法の演算表には面白い対称性が見いだせることなどを解説しました。さらに、有限体にまつわる興味深い事実として、フェルマーの小定理を紹介しました。現代のインターネット社会において必要不可欠な暗号理論において、このフェルマーの小定理は中心的な働きをして役立っています。

最後に、有限体の計算に慣れ親しんでもらうために、ラテン方陣や魔法陣の話題を提供しました。簡単な計算で楽しんでいただければと思ったのですが、限られた時間では丁寧な説明ができず、申し訳ありませんでした。お配りした魔法陣の作成プリントをささやかなお土産としていただければ幸いです。また、込み入った数式を書いたスライドを多用してしまったのは無理があったと反省しています。分かりにくい説明が多くなってしまったにもかかわらず、来場していただいた方々には我慢強く話を聞いていただいたことに感謝いたします。


河田 成人(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

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