開催報告(第127回)

単細胞ですが、なにか?
~新発見が続くモデル生物・酵母~

講師:中務 邦雄 氏(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科・准教授 / 専門:代謝生化学、機能生物化学、細胞生物学)
日時 : 2017年12月15日(金)
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

酵母はアルコール発酵の能力にすぐれた微生物で、数千年も昔から、酒、ビール、パン、ワインなどの製造に使われてきました。酵母はまた、20世紀の生命科学の進歩に多大な貢献をしてきました。大腸菌などの原核生物とは異なり、酵母はわれわれヒトと同じ真核生物です。実際、細胞が生きていくのに必要な基本的な仕組みの多くが、酵母からヒトまで保存されています。たとえば、細胞周期、細胞内のタンパク質輸送、そしてタンパク質分解に関わる遺伝子群は、酵母を使った遺伝学的研究によって発見され、後に、ヒトにも同じような仕組みがあることが分かってきました。今回のサイエンスカフェでは、酵母を使った生命科学研究の魅力と、最先端の話題を紹介させていただきました。

イントロダクションでは、微生物とは何か?から入りました。教科書通りの説明では物足りないと思いましたので、身の回りにあふれる微生物を実際に採取して、皆さんにご覧いただきました。栄養が豊富な寒天培地のフタを開けて部屋で一晩放置したり、指または頬で培地を直接触ったり、葉をこすりつけたりしました。また、ドアノブ、便座などにもこすりつけ、その結果どのような微生物が生えてくるか観察しました。私自身も初めての試みでしたが、見たこともないような微生物がたくさん生えました。興味深いことに、違う人同士でも肌にいる微生物は共通していることが分かりました。さらに、肌にいる微生物と、空気中、ドアノブ、便座にいる微生物はかなり異なることも分かりました。

次に、細胞周期、タンパク質輸送、タンパク質分解などに関わる遺伝子群が、出芽酵母を使った遺伝学的スクリーニングによって単離されたこと、そしてそれらの多くがヒトにも共通して存在することを紹介しました。

最後に、酵母の合成生物学にも少しふれました。発酵食品を作るとき、酵母の性質を自在に変えることができれば、工業的にも大きなメリットがあると考えられます。さらに、酵母の大規模な遺伝子改変の手法の開発することで、基礎生物学的に興味深い原理の発見にも結び付くことが期待されます。もちろん、実際に人々が口にするまでには、遺伝子組換え食品の問題など、克服すべき様々な課題があると考えられます。しかし、合成生物学によって創出された人工酵母の工業利用は、今後もますます注目されていくものと考えられます。酵母の研究は日々進んでいて、新たな発見が続いています。力不足を感じましたが、面白さの一部でも皆様にお届けできていましたら幸いです。


中務 邦雄(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

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