開催報告(第130回)

結び目の数学と応用

講師:鎌田 直子 氏(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科・教授 / 専門:位相幾何学)
日時 : 2018年4月20日(金)
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

今回は結び目理論とその応用について話題を提供させていただきました.

大学で初めて学習する数学の分野に位相幾何学(トポロジー)があります.結び目理論は位相幾何学における研究分野です.位相幾何学では図形の大きさは関係なくその図形の大まかな形を解析し,分類します.たとえば,位相幾何学では四角形も円も同じ形です.ドーナッツとマグカップも同じ形です.その位相幾何学の起源はケーニヒスベルグの橋の問題であると言われています.18世紀のはじめにケーニヒスベルグに流れる川に7つの橋がありました.これらの橋を1回ずつ渡って出発点に戻る散歩コースの作成の計画があり,数学者のオイラーがこのコースの作成を依頼されました.これは一筆書きの問題に帰着でき,彼は一筆書きができる図形の条件を発見しました.そしてケーニヒスベルグの橋のこのような散歩コースは作れないことがわかりました.会場では皆さんにいくつかの一筆書きのクイズに挑戦していただきました.

位相幾何学の研究の一つに結び目理論があります.結び目理論は1つまたはいくつかの絡んだ輪を分類する学問です.結び目理論ではその輪の大きさは関係なくそれを切ったり貼ったりせず連続的に動かして同じ結び方になるものを同じ結び目と考えます. 結び目理論の起源は18世紀中盤に遡ります.Kelvin卿が物質の原子はエーテルの渦が結び目を作ったものであると仮説を立て,Taitが結び目の分類表を作成しはじめました.結び目を厳密に分類することは容易でなく,数学では不変量という数学的な手法をもちいて結び目を分類します.会場の皆さんに実際に結び目を作って,数学手法を用いない結び目の分類を体験していただきました.

数学的に結び目を分類する道具に結び目不変量があります.結び目不変量は結び目の集合から数学的な集合への写像で,アレキサンダー多項式,ジョーンズ多項式,基本群などがあります.結び目解消数は結び目不変量であり,それは結び目のタイプをあるルールで局所変形(結び目解消操作)して絡まない結び目(自明な結び目)に変形する最小の操作の回数です.この結び目解消操作の一つに領域交差交換があります.この領域交差交換を応用して,領域交差交換ゲームが開発されました.そして産学連携の一環としてアンドロイドマシンのゲームとしてリリースされています.このゲームについてお話しをして,幼児の知育玩具として実際に子供達に試してもらい学術的に検証されていることを紹介させていただきました.

当日は遅い時間にも関わらず多くの皆さんにご来場いただきとても感謝しております.数学は科学の分野でも地味に思われるかもしれません.しかし,科学の基礎的な理論を支える側面もあり,そのような現代の数学の一端をご理解いただければ嬉しく思います.


鎌田 直子(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

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