開催報告(第140回)

植物ホルモン、ジベレリンが伝達される仕組み

講師:上口 美弥子 氏(名古屋大学生物機能開発利用研究センター・准教授 / 専門:植物分子生物学)
日時 : 2019年3月15日(金)
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

今回のサイエンスカフェでは、植物ホルモンの1つであるジベレリンにまつわる話をさせていただきました。

ジベレリンは、日本人が発見して名付けた唯一の植物ホルモンです。馬鹿苗病の原因の化合物として見つかり、後に植物ホルモンであることがわかりました。また、ジベレリンの構造決定がされるまでの世界と日本の研究の競争の歴史などをご紹介いたしました。ジベレリンは、背丈を植物自らが調整するのに重要な働きをしているので、穀物が肥料を与えても倒れないような育種をしてきた時に、ジベレリンの生合成や受容が育種のターゲットとなってきました。その具体的なお話として、稲塚権次郎の小麦農林10号の育種についてご紹介いたしました。

この15年ほど、植物ホルモンがどのように植物に受容され細胞の中で伝わっていくか(シグナル伝達)というのは、植物生理学者にとって大変興味の惹かれる研究課題の1つでした。このセミナーの中では、私たちの研究、すなわちイネのジベレリンの受容とシグナル伝達の仕組みをご説明させていただきました。ジベレリンの受容体は構造がわかると、まるで酵素リパーゼのような形をしていることがわかりました。古代の植物の中で、リパーゼとして働いていた酵素が、ある時にジベレリンを結合できるようになったのかもしれません。生物の進化の不思議です。

最後にカニクサというシダの造精器誘導についてお話をしました。カニクサをはじめとするいくつかのシダにおいては、先に成長した前葉体(造精器も造卵器も持っています)が、造精器誘導物質というのを分泌して周りのまだ性決定されていない小さな前葉体に働きかけて、造精器のみを持った前葉体を誘導します。この物質がジベレリン様の構造を持っていることは、以前の報告の中でわかっていました。私たちは、先に成長した前葉体が分泌している化合物は、ジベレリンの合成途中の物質で、それが小さい前葉体に受け取られてから最終のジベレリンに合成されることを見つけました。つまり、ジベレリンは、大きい前葉体から小さい前葉体に橋渡しされて生合成が完結した結果として、小さい前葉体のみが造精器のみの個体を作ることが可能なのです。このことは、他殖の効率を上げ多様性に有利に働くと言われています。そんな、巧みなシダの生殖様式についてもお話いたしました。

参加者の皆様は、真剣にお話を聞いてくださり、たくさんの質問もいただきました。植物の不思議と、人間と穀物の育種の歴史の興味深さを感じ取っていただけたなら幸いです。


上口 美弥子(名古屋大学生物機能開発利用研究センター)

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