開催報告(第141回)

時の流れを漂ふ言の葉
~表記・意識・発音の不整合に見ることばの不思議~

講師:中村 篤 氏(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科・教授 / 専門:音声言語処理、情報系列学習識別)
日時 : 2019年4月19日(金)
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

わたしたちが子供のころから慣れ親しんでいる「あいうえお」の五十音表は、平安時代に始まる「音図」の研究から、先人たちの多大な努力の積み重ねを経て、数世紀をかけ成立したものです。その間、ことばは絶えず変化し、本来日本語音節の厳格な体系である五十音表が示す発音と、実際の発音との間には、様々な不整合が生じています。それらの不整合の中には、わたしたちが明確に意識しているものも、通常では気づくことのできないものもあります。

今回のサイエンスカフェでは、わたしたちのことばの変化の実態について取り上げました。 まず、日本語における表音記述とその体系化の歴史を振り返った後、現行の発音との不整合を確認し、その主たる要因について、個々の言語音の生成メカニズムに基づいて明らかにしました。あわせて、意識できる不整合と出来ない不整合について、物理的単位である音価と心理的単位である音韻の違いをもとにご説明しました。

最後に、助詞の「は」、「へ」を、[wa]、[e]と発音する不整合が、唇音退化、ハ行転呼、といった音声学的な現象と、「かなづかい」に関する内閣告示のような社会制度的措置の両方に起因していることをご紹介しました。

ことばに対する思いは、人それぞれです。「ら」抜きことばや、SNSでの砕けた表現など、いわゆる「ことばの乱れ」に対し、どうしても許せない人も、ある程度許容できる人もいるでしょう。いずれの立場だとしても、感情的に反応するのではなく、ことばの仕組みを理解した上で、その変化を客観的に捉えることが肝要だと思います。今回のサイエンスカフェが、それに向けたひとつのきっかけになれば幸いです。

やや、つかみどころのない話題で、どうなることかと心配しましたが、会場の皆さまは熱心に耳を傾けてくださり、沢山のご質問もいただきました。この場を借りて、御礼申し上げます。


中村 篤(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

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