開催報告(第145回)

じゅげむ じーのむ えぴじーのむ
~長い長いゲノムの話~

講師:田上 英明 氏(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科・准教授 / 専門:分子生物学、クロマチン制御学、エピジェネティクス)
日時 : 2019年8月23日(金)
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

「じゅげむ じーのむ えぴじーのむ」という一見よく分からないタイトルで、久々にサイエンスカフェを担当させていただきました。なんとなく語幹が似ている「寿限無」と「ゲノム」を掛けただけでなく、長いゲノム情報を「言葉」と捉えて意味のある単語や文章を作る作業とのアナロジーから、エピジェネティクスやエピゲノムを紹介したいと考えました。

まず、「ゲノム」という言葉の成り立ちやゲノム解析から分かってきたことをお話しました。ゲノムの大きさだけで生物の複雑性が説明できず、タンパク質をコードする遺伝子領域以外の重要性が示唆されてきています。

人の細胞1個に含まれるDNAの長さを計算してみると2mにもなること、これをどのように収納しているか、ということをミシン糸やCGでイメージしてもらいました。さらにDNAをスパゲッティに例えて、様々なレシピで多様な味付けができるように、DNAやそれを巻き付けるヒストンにも化学修飾という”印”をつけることで同じ配列でも多様な意味づけができるエピジェネティクスを紹介しました。

「寿限無」も“印”をつけた部分だけ読むと全く違う文章になります。同じ言葉の並びでもどこを読むか、どこを読まないか”印”をつけることで多様な意味を持つようになります。しかし、言葉の並び自体は変わっていないので”印”を消せば元に戻るのです。まさに、多様な細胞に分化した後でもゲノム情報自体は同じなので、iPS細胞のように巻き戻せるかのようです。さらに、このエピジェネティクスが高次生命現象に関連する例や研究トピックスなどについてもお話ししました。

最後に、最近ニュースなどでもよく取り上げられるゲノム編集についてお話しさせていただきました。突然変異や交配による品種改良から遺伝子組換え技術、ゲノム編集技術による作物や家畜の改良、バイオハッカーやゲノム編集ベビーまで、生命科学と安全性、倫理性などについて議論しました。

本来、サイエンスカフェは講演会ではなく気楽に意見交換をする場であろうと考えて、あえて問題提起をしたつもりでした。少々散漫になってしまったかもしれませんが、会場からも活発に意見が出て良かったと思います。呪文のようなタイトルは「なんだか分からないものは怖い」という意味も含めたもので、最新の生命科学について身近な課題として一緒に考える端緒となることを期待しています。ご参加いただいた皆様に感謝いたします。



田上 英明(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

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