開催報告(第146回)

人生100年時代を見据えた健康づくり

講師:髙石 鉄雄 氏(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科・教授 / 専門:応用生理学、バイオメカニクス、健康科学)
日時 : 2019年9月20日(金)
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

わが国の平均寿命は男性で81歳、女性では87歳をこえ、近年「人生100年時代」と言われています。特に最近、退職後を生きるには一人あたり「年金+2,000万円必要」というニュースが世間で話題となり、「健康でいなければ、さらにお金が必要になる」と自身の将来を危惧する高齢者も多いようです。

今回の講座ではまず始めに、今年初めて100歳以上の日本人が7万人を超えたこと、但しそれは人口のわずか0.06%であること、いっぽう75歳を迎えた男性では平均87.2歳、女性では平均90.8歳まで生きることなどを紹介し、ほぼ「人生90年時代」を迎えたことを確認しました。次に本講座の要点として、「健康づくり」に必要なのは、自身が活動的に生きていることを自身の身体に伝えるための“ややきつい”と思える運動であることを説明し、それには、5~10分間のウォーミングアップ歩行に続く「早足歩行」、「坂道歩行」、「階段昇(降)」が有効であることを示しました。

続いて、日本人が亡くなる原因(死因)と要介護に至る原因が何であるかのデータを基に、「健康づくり」の方向性には、① 大血管系障害につながる動脈硬化の予防、② 自立した日常生活に必須となる起居・移動能力の維持、③ 認知症の予防の3つがあり、自身の取り組みがその中のどれかにつながって初めて「健康づくり」のための行動と言えます。大血管障害の原因の一番は動脈硬化であることを示した後、頸動脈にできたアテローム性動脈硬化を切開切除する様子、血栓により心室部分に血液が流れないまま拍動を続ける心臓の様子などを動画で紹介し、過食や運動不足に伴う血管内のLDLコレステロール、中性脂肪、血糖の増加などが動脈硬化や血栓の形成につながるメカニズムについて、動画やアニメーションを多用したスライドを用いて詳しく解説しました。

次に、瑞穂区を流れる山崎川堤防沿いを歩いている方々について、血液検査値、歩数、歩行中の心拍数、歩行経路などのデータを順に示し、歩数重視の平地歩行ではLDLコレステロール値、HDLコレステロール値などに積極的な運動効果が認められないこと、そのような方々が歩く際の運動の強さを、これまでの37%HRR(HRRは心拍数を使った運動の強さの指標)から48%HRRにまで増加させたところ、LDLコレステロール値や中性脂肪値が改善したことなどをお話ししました。

また、高齢者の要介護の原因となっているのが脚筋力の低下であること、脚力の維持や骨密度の維持には無酸素運動が必要で、階段昇降などの立体移動がこれに該当することを動画やアニメーションを使って説明しました。参加者の多くは、自身がこれまで行ってきた運動では不十分であったと認識し、今後どのような運動を取り入れると良いかを理解した様子で、その後の質問タイムでは、自分が行っている運動の是非に関わる質問が参加者の中から複数寄せられました。

第2部では、近年のNHKシリーズ「人体」において紹介された内容をもとに、強めの運動を行うことが骨や筋肉を刺激し、その刺激がそれらの中から筋力維持、骨密度維持、記憶力・免疫の向上などを引き出すメッセージ物質を出していることを説明し、「自分がまだ頑張って生きようとしていることを、多少きつめの運動によって普段から自分の身体に伝えることが高齢期をより良く生きる秘訣である」ことをお話ししました。



髙石 鉄雄(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

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