開催報告(第147回)

数の世界の義理と人情
~ 計算と逆算を巡る葛藤から創造へ ~

講師:河田 成人 氏(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科・教授 / 専門:代数学)
日時 : 2019年10月18日(金)
会場 : 7th Cafe (中区栄・ナディアパーク7階)

自然数は、抽象的・論理的な考察をするうえで最も普遍的なものです。その自然数に加法(たし算)・乗法(かけ算)という計算が自然に生まれました。この計算という行為をじっくり観察することで、数は単なる記号ではなく、魅力的な思索の対象であることが認識されています。数を計算するという行為を源として、数学では奥深い理論が展開されているのです。今回のサイエンスカフェでは、この加法・乗法という代数的な演算に注目し、数の世界の広がりについてお話をしました。

自然数の加法・乗法という演算において、結合法則・分配法則という性質が成り立つことを意識すれば、計算がとても便利になることを説明しました。一方で、計算を活用していく上で方程式を解く必要性がでてきます。1次方程式を解きたい!と欲することは自然な人情で、たし算やかけ算の逆算である引き算や割り算を自由にしたいわけです。ところが自然数の世界にとどまっていると、引き算や割り算は不自由なので葛藤が生じます。そこでマイナスの数や分数が考え出されました。整数や有理数の創造です。この新たに広がった数の世界においても自然数のときと同じように計算ができれば大変役立ちます。そのためには、結合法則や分配法則を守って計算ルールを決める義理があったことを説明しました。さらに実数や複素数へと数の世界が拡張されることに伴い、「環」や「体」という抽象的な概念が確立されてきたこともお話ししました。「体」ということに関しては、整数の割り算を利用して剰余体という興味深い数の世界が構成できることについても紹介しました。

最後に、複素数体の拡張として、ハミルトンの四元数体について紹介しました。特に代数的な側面に注目し、線形代数の手法を用いて四元数の行列表現を利用すれば、逆数の存在保証や2次方程式の解が求められることについて概説し、複素数との類似点と相違点について解説しました。このあたりでは説明が早くなってしまったことや、私の力不足で四元数体の代数的な一面しか説明できなかったことを申し訳なく思っています。

数学は論理的に厳密性が要求されるので堅苦しく感じられることがあると思います。サイエンスカフェでは、実際の数学は結構人間味があることをお伝えしたいと思っていました。このたびのことが機会となって数学にもっと関心を持っていただけると幸いです。最後になりましたが、当日は雨の中にも関わらず参加してくださり、本当にありがとうございました。



河田 成人(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

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