開催報告(第154回)

スコップで探る未知の世界
~ 波打ち際で爆発的に進化したハゼたち ~

講師:渋川 浩一 氏(ふじのくに地球環境史ミュージアム・教授 / 専門:魚類分類学)
日時 : 2020年9月12日(土)
方法 : Zoomアプリによるオンライン同時配信
参加者:南山高等・中学校男子部の15名(生徒13名・教員2名)及び名市大理学研究科の教員・学生約10名

今年度猛威を振るった新型コロナウイルスの影響で4月以降に予定されたサイエンスカフェは軒並み中止となっていました。こうした状況をなんとか打開できないかとサイエンスカフェのスタッフと知恵を絞り、zoomアプリを用いたサイエンスカフェを試行することになりました。特別版のオンラインカフェですので、カフェのお客さんは、理学研究科附属生物多様性研究センターの今年度高大連携先である南山高等・中学校男子部の生徒さんに絞らせて頂きました。

初めての試みが果たしてうまく行くのだろうか? このような不安のもと、講師の渋川先生や南山学園の皆さんとzoom接続の予行演習まで実施させて頂きました。カフェの実施スタッフも含め、皆さんの快いご協力に本当に頭が下がる思いでした。迎えた当日、皆さんの画像・音声を確認でき、渋川先生がカフェの話を始められた時は本当にほっとして、危うくzoomの録画ボタンを押し忘れるところでした。




渋川先生は魚類分類学がご専門で、これまで30年近くに渡って、日本国内や東南アジアに分布するハゼ類などの魚類を研究してこられました。今回のカフェでは、静岡県の浜辺の身近なフィールドに、思いもよらないほど多種多様なハゼ類が生息しているとの御発見について、美しい写真をふんだんに交えて熱く語って下さいました。

「ハゼってどんな魚?」という問いかけから始まり、リンネ式階層分類の初歩的知識をさりげなく交えながら、中高生でも理解できるような平易な言葉で語りかけて下さいました。アストラベ群のミミズハゼ属で非常に多くの未記載種が発見される理由について、渋川先生は深い洞察に基づく仮説を紹介されました。きっと中高生の皆さんは科学研究の醍醐味に魅了されたに違いありません。

「アストラベ群の未来」と題した最後のパートでは、護岸工事や砂防ダムの建設といった人間を住みやすくするための工夫が、実はハゼ類が適応する生息環境の破壊につながっている可能性について言及されました。これは、生物多様性の保全の難しさについて、まさに本質を突く問いかけであり、正解を直ちに提示できない深遠な問題です。

講演終了後には、zoomアプリを通じて、参加者からの質問に丁寧に答えて下さいました。身近な生きものを題材にして、中高生から大人まで私たちに深く考えさせるご講演をして下さったことに感謝します。南山学園の生徒さんも、ふじのくに地球環境史ミュージアムをいつか訪れてみたいと思ったそうです。



熊澤 慶伯(名古屋市立大学大学院理学研究科)

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