広田_2 of 非コードDNA

細胞周期を通じた染色体構造変換における非コードDNA領域の役割
広田 亨

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公益財団法人がん研究会
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安定したゲノムの継承は、すべての生物にとって最も基本的な営みです。複製されたら直ちに、DNAは2つの塊に分けられる原核生物の場合とは対照的に、真核生物では、複製した姉妹DNAどうしは、M期で分離されるまで、結合したままペアで存在することが知られています。つまり、真核生物は、M期において、姉妹染色分体という別々のエンティティを形成してそれを2つに分けるというストラテジーをとります。この姉妹染色分体は、どのようなメカニズムによって構築されるのでしょうか。その背景には、クロマチン線維を織りたたむ「凝縮」という現象と、「コヒージョン」と呼ばれる姉妹DNAどうしの結合を解除するという現象があり、それらが同時に進行して姉妹染色分体が構築されることが分かっています。
SMC (Structural Maintenance of Chromosomes) というタンパク質群は、種を超えて保存されたATPaseで、コヒージョンや凝縮において決定的な役割を担っていることが知られています。原核生物では、ヒストンがなくヌクレオソーム構造をとらないにもかかわらず、SMCのプロトタイプMukBによる制御を受けけることからも、SMCが原始的なクロマチン制御に関与していることが示唆されます。真核生物の場合、SMCは6種類あり、そのうちSMC1/3はコヒーシン複合体、SMC2/4はコンデンシン複合体の構成因子として、それぞれ、コヒージョンと凝縮の制御に関わっています。まだニックネームのないSMC5/6も、やはりクロマチン構造の制御に不可欠なはたらきをしているようです。従って、染色体動態研究の一つの重要なアプローチは、SMCの機能を追究することにあると言えます。私たちは「M期を迎えた細胞がいかにして染色体を構築するのか?」という命題に対して、SMC複合体の機能とその制御の方法を解いていくことによって迫ろうと考えています。