前川 of 非コードDNA

転写因子ATF-7を介した、ストレスによるテロメアの長さの変化と老化の促進
前川 利男

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理化学研究所 基幹研究所
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ATF-2は、私達が最初に同定した転写因子で、B-ZipタイプのDNA結合ドメインを有し、CREと呼ばれる配列に結合する。ATF-2遺伝子ファミリーはATF-2とATF-7、CRE-BPaの3つのメンバーから成り、TNFαや低酸素刺激、UV等の種々のストレスによって活性化されるp38/JNKによって直接リン酸化されて活性化される。私達はこれまでに、マウス変異体を解析し、ATF-2が胎便吸引症や乳癌の発症、脂肪細胞への分化等に関与することを報告してきた。一方、ATF-7遺伝子欠損マウスを作製・解析した結果、このマウスは中脳でのセロトニン受容体5bの顕著な発現上昇によって自己受容体がシナプス間隙のセロトニン濃度を低下させ、行動異常を引き起こすことが明らかになった。
ATF-7の転写抑制メカニズムを解析するためにATF-7複合体を精製した。その結果、Ku70とKu80、DNA-PKが結合していることが明らかになった。更に、ATF-7とKu70/Ku80の結合はUV照射によって、ATF-7がリン酸化されたときに解離することが分かった。Ku70/Ku80はテロメラーゼと相互作用する事が報告されており、テロメアの長さの維持にも必須の因子として知られているので、Atf-7-/- MEFのテロメアの長さを定量的FISH法で野生型と比較した。その結果、Atf-7-/- MEFのテロメアの長さは有意に短いことが判明した。ChIP法を用いた結合実験では、ATF-7はテロメアのDNAに結合しているが、UV照射を受けてリン酸化されるとテロメアのDNAから解離するという結果が得られている。そこで先ず、ATF-7がどのような仕組みでテロメアの長さの維持に関与しているのか、その分子メカニズムを探りたい。次に、ストレスによってテロメアの長さの維持機構がどのように変化するのか、ATF-7の51、53番目のリン酸化に注目して、その生物学的意義を明らかにしたいと考えている。