図:ラグビーボール型コンドリュールの三次元模型。土'山明教授の研究室にて撮影。実際のコンドリュールはもっと小さいので注意!

変形するコンドリュールメルト

コンドリュールは,溶融した岩石(マグマ)が表面張力で丸くなったのち,急冷凝固したものです。ということは,その形状は真球であるはず。ところが,実際のコンドリュール形状を三次元的に測定した土'山明教授(京大)のデータによると,その多くはほぼ真球だが,中にはラグビーボール型のコンドリュールが存在することが分かりました。なぜ,本来は球になるはずのコンドリュールが,球からズレた形をしているのか? ここには,コンドリュール形成メカニズムの謎を解く鍵があるのだと考えました。

衝撃波加熱モデルの場合,コンドリュールは高速のガスの流れの中にさらされています。ということは,コンドリュールが加熱溶融したときも,ガスの影響を受けているはず。雨粒が空気中を落下するときのように,風によって変形したり,場合によっては分裂が生じるのではないか? これがコンドリュールの形に反映されているのであれば,そこから衝撃波に関する情報が得られるのではないか?

動画:ガス流の中で回転する液滴の変形。三次元数値流体計算による計算結果(図をクリックすると,新しいウィンドゥでQuickTime動画が再生されます)。

ラグビーボール型の起源

右図は,粘性の高い液滴が,回転しながらガス流の影響を受けた場合の三次元数値流体計算結果です。図のように,回転軸に対して垂直な方向からガスの圧力を受けると,回転軸方向に伸びたラグビーボール型になることが明らかとなりました。高い粘性のため,液滴の変形が回転に追いつかず,ガス流の影響が回転方向に対して平均化されるからです。

もし,回転速度が大きければ,回転軸に沿って伸びるのではなく,強い遠心力によって回転軸に対して垂直方向に平たくなるでしょう。これだと,ラグビーボール型とは違う形になってしまいます。つまり,ラグビーボール型のコンドリュールを作るには,ガス動圧の強さと回転速度の比が適切な条件を満たす必要があることになります。簡単なモデルに基づいて液滴の回転速度を見積もってみたところ,衝撃波加熱モデルはラグビーボール型コンドリュールの形状を説明できることが分かりました。

動画:ガス流の中で分裂するcmサイズの液滴の変形。三次元数値流体計算による計算結果(図をクリックすると,新しいウィンドゥでQuickTime動画が再生されます)。

大きな液滴の分裂

コンドリュールサイズ(~mmサイズ)の液滴の場合は,ガス流によって変形します。では,もっと大きな液滴(~cmサイズ)があった場合,何が起きるのか? 答えは「分裂」です。

右図は,cmサイズの液滴が,高速ガス流の中で分裂する様子を再現した三次元数値流体計算の結果です。半径2 cmの液滴がガス流によって分裂し,多数の小さな飛沫が生じる様子が分かります。飛沫のサイズは,おおよそmmサイズ,つまり,ちょうどコンドリュールと同程度のサイズとなっています。隕石に含まれるコンドリュールのサイズはよく揃っていて,ほとんどが100ミクロンから1 mmの間に分布していることが知られています。つまり,衝撃波加熱の場合は,コンドリュールサイズの上限がちょうどmmサイズ程度に調節されるので,実際のサイズ分布と良く合っていることになります。これは,コンドリュールが衝撃波加熱によって形成されたことを強く示唆しています。

さらに,各飛沫の軌道を詳細に分析してみると,飛沫同士の衝突が高い頻度で生じることが分かりました。飛沫同士が衝突すると,ちょうどふたつの雨粒がぶつかったときのように,合体してひとつの大きな飛沫になるでしょう。ですが,もし合体が完了する前に冷えて固まってしまうと,雪だるまのような形のまま凝固する可能性があります。このような雪だるま型のコンドリュールは隕石中にも発見されており,「複合コンドリュール」と呼ばれています。このような「分裂後の再衝突」は,複合コンドリュールの成因に成り得るのではないかと考えています。

本研究室の取り組み

ガス流にさらされた液滴の変形や分裂は,変形が十分に小さいときを除き,手計算のみで扱うことが非常に困難な物理過程です。このような現象を扱うために,三次元数値流体計算を行なっています。数値計算手法には,CIP (Constrained Interpolation Profile)法を用いています。

(2013.5.7 初稿)