流れ星

流れ星は,地球に落下してきた惑星間塵(IDPs)が,大気との摩擦によって加熱されて発光する現象です。真っ暗な夜空に突如現れる一筋の閃光…非常に美しい自然現象ですね。2001年には「しし座流星群の大出現」がありました。当時,私は筑波大学の大学院生でした。サークル仲間を引き連れて海岸まで出向き,寒い中地面に寝そべって流星群を眺めたのは良い思い出です。

ここでは,その美しい自然現象の物理的側面,そして,我々の研究テーマとの関係について紹介したいと思います。

図:流れ星が加熱されるメカニズム。

加熱のメカニズム

そもそも,なぜ流れ星は加熱されるのか。流れ星の元となる固体粒子(以下,ダストと呼称)は,地球に向かっておおよそ10 km/sもの速度で落下してきます。ダストにしてみれば,地球大気の分子が10 km/sもの速度でぶつかってくることになります。この速度を熱エネルギーに換算すると,およそ1万K以上の温度に相当します。この運動エネルギー(の一部)が,ダスト表面に衝突した際に熱としてダストに加えられます。これが,ダストが加熱されるメカニズムです。

これは,必ずしもダストが1万Kの温度まで加熱されるということを意味しているわけではありませんが,10 km/sという速度がダストをどの程度まで加熱しうるかの目安になります。

流れ星の場合,大気に対する落下角度に依りますが,およそ1000 K,もしくはそれ以上まで加熱されます。中には溶融してマグマ液滴となり,丸くなったのちに固化した粒子(cosmic spherule)なども発見されています。

動画:衝撃波によるダスト加熱(図をクリックすると,新しいウィンドゥでQuickTime動画が再生されます)。

衝撃波とダスト加熱

ダストをガスによって強く加熱するには,ダストとガスの間に数km/sもの相対速度を発生させる必要があります。ですが,地球上には大気抵抗が存在するので,通常の手段ではこのように大きな相対速度を発生させるのは困難です。流れ星の場合は,大気抵抗が存在しない宇宙から地球に向けて落下するので,このような相対速度が実現するのです。

衝撃波は,このようなダスト加熱を起こしうる物理現象のひとつです。大気中を音速以上の速さで移動する物体の周囲には,衝撃波と呼ばれる物理量(大気の圧力,温度,速度)の不連続面が生じます。衝撃波の前後では,ガスの速度が不連続に変化しています。ここで,ダストがガスの中に浮遊しているところを衝撃波が通過する,という状況を考えましょう。衝撃波面が通過した瞬間,ダスト周囲のガスが瞬間的に加速されるため,ダストとガスの間に大きな相対速度が生じます。つまり,大気の中に固体粒子が漂っている近くを超音速の物体が通過すれば,流れ星と同じような粒子加熱が生じる,ということです。

初期太陽系ガス円盤における粒子加熱

とはいえ,地球大気中では,流れ星のような現象はほとんど生じません。地表付近の音速はせいぜい340 m/s,高速飛翔体としてマッハ3の航空機を考えても,発生可能な相対速度は最大でも1 km/s程度です。氷のような低融点の物質なら加熱され,融けたり蒸発したりするかも知れません。ですが,流れ星の主成分である珪酸塩(融点およそ1800 - 2000 K)に対してはほとんど影響はないでしょう。

ですが,太陽系の初期に存在していたとされるガス円盤の中であれば話は別です。

地球を始めとする太陽系惑星は,ガス円盤の中で作られたと考えられています。もともとミクロンサイズ以下だった固体粒子が,ガス円盤の中を動きながら合体衝突を繰り返し,数1000 kmサイズの惑星へと成長したのです。地球の公転速度は約30 km/s,この一部をガス円盤との相対速度に変えることができれば,珪酸塩からなる粒子を加熱溶融することもできるでしょう。

この「衝撃波加熱モデル」は,隕石に含まれるコンドリュールを作った有力なメカニズムだと期待されています。

本研究室の取り組み

衝撃波加熱現象は,以下に挙げるように,非常に多くの物理過程が関わる現象です。このような複雑系に対し,ひとつひとつの物理現象を素過程からモデル化することで,数値計算コードを開発しています。また,その数値計算コードを用いて,太陽系始原物質が経験したであろう熱履歴の研究を行なっています。

<衝撃波加熱モデルに関わる物理過程一覧>

(2013.4.18 初稿)