昼光下における物体色変化の不変性について


 昼光は季節や時刻によって変化するので、人が物を認識するためには、 視覚の色恒常性の機能は非常に重要です。それに関して、次の2つの 疑問が生じます。
  1. ある昼光の下で条件等色した色の組(メタマー)が、他の昼光の下ではどの位 異なって見えるのか? −この色差が大きい場合、物の認識はうまく行きません。
  2. 色温度T1の昼光の下での物体Aの色と、色温度T2 の昼光の下での物体Bの色が一致する場合、それぞれの昼光が変化する際、 色は同じように変化するのか? −もしこの変化の仕方が大きく異なると 視覚の色恒常性の仕組みは非常に複雑なものになると思われます。

 これらの疑問に対しては、実際にこの世に存在するメタマーが、昼光に対して どのような振る舞いをするのかを調べなければなりません。我々は、1997年 から、通常世の中で見られる物体色の分光反射率・透過率を収集し、5万色 を越えるデータをISO TR 16066 "Standard Object Colour Spectra for Colour Reproduction Evaluation(SOCS)"として、公表しています。このデータを 利用して次のことを明らかにしました。

昼光下ではメタマーは、色温度が変化してもメタマーである

次の11種の物体色について、D50下でメタマーである分光反射率を9,300K の昼光下で観察した場合の色の差を計算しました。
  1. Graphic prints (of05_g)
  2. Natural flowers, leaves and skin colors (flower + leaf + t2fbchc1→fllfskin)
  3. Paint not for art (paint)
  4. Oil paints (pa_o + pa_s→oil)
  5. Photographic transparency (ph01_t)
  6. Photographic reflection prints (ph01_r)
  7. Dye sublimation printer (pr_ds_3)
  8. Dye sublimation printer (pr_ds_4)
  9. Electro-static printer (pr_es_3)
  10. Inkjet printer (pr_ij_1)
  11. Polyester textiles (poly)


  12.  例えば、gとhでは、次の左図に示すように分光反射率には大きな差が ありますが、CIE XYZ空間での最大色差及びrms色差は右図の通りです。
    図1 図2
     本来、色差はCIELABのような均等色空間で示すのが望ましいのですが、 CIELABなどはD65昼光の下でしか有効でないので、ここではXYZ空間での 色差で示しています。ほぼ平均で1以下の色差で、これは、一般には視覚 的にはほとんど区別できません。
     これにより、現実の物体色は昼光下で、メタマーならメタマーであること が分かりました。

    昼光下での物体色の変化は、昼光の変化をmiredで測ると一定

     異なる色の物体も、色温度の異なる昼光下では、同じ三刺激値(XYZ値) を持つ場合があります。それらの色が、昼光の色温度が変化したときに 左図のように変化するのであると、視覚は色と光源の組毎の色変化を 記憶しないと物体認識ができません。しかし、右図のように同じように 変化するのなら、ある三刺激値について、変化を記憶すればいいので、 仕組みは簡単になると考えられます。
    図3 図4
     実験の結果、昼光の差を色温度で測るとこの変化軌跡は同じになりま せんが、昼光の色温度をmiredを単位としたM(=106/T)で測ると、ほと んど一致することが分かりました。320の色について、250mired(4,000K)から 83mired(12,000K)までの光源の変化について、rms色差をXYZ空間で示したのが、 次の表になります。

    M1→M2200→140167→107143→83
    250→1900.7921.7552.559
    200→140-1.0001.823
    167→107--0.824
    M1→M2140→200107→16783→143
    190→2500.7851.5902.269
    140→200-0.8101.518
    107→167--0.744

     表のように、250mired(4,000K)から190mired(5,263K)への変化と143mired(7,000K) から83mired(12,000K)への変化の差が一番大きいが、その差は平均すると やはり3程度で、ほとんど区別がつきません。このように、昼光と物体色 の関係から、視覚系が色恒常性を実現しやすい関係が成り立っていること が分かりました。