“最適なペダリング速度” バイオメカニクス研究 8(1):42−51, 2004
をお読みいただいた方へ


はじめに
この度は、「バイオメカニクス研究」の特集記事、“最適なペダリング速度”をお読み いただき、ありがとうございました。あの記事は、私自身が今までに行った自転車関連 の研究を中心に、“自転車競技者がなぜ日常では考えられないようなペダル回転数(ケイデ ンス)を使って自転車をこぐのか”ということを解説し、そのメリットとその中での身体 適応を運動生理学的な立場から解説したものです。私自身はバイオメカニクス学会に所属 しておりませんので、私の名前をご存知ない方も多いかと思います。記事を書き始める 際には、バイオメカニクス学会の研究者(特に大学生、大学院生)を意識したつもりでした が、途中から、実際にアドバイスをいただいたサイクリストの方々にも理解していただける ようにと二股をかけたため、内容が中途半端になったと自分でも反省しています。

皆さんがタイトルから期待された内容になっていましたでしょうか?、ご意見ご質問など、 お気軽にメールいただければ幸いです。

 さて、筆者紹介に、このホームページのURLを入れた最大の理由は、私自身の仕事を 紹介し、手伝って下さる方(院生・研究生・共同研究者)を得たかったことにあります。 特集記事は、私が今までに行った仕事で、言うなれば“過去の仕事”です。少し長くなり ますが、ここでは、私がこれから取り組もうとしている今後の“自転車に関わる仕事” を紹介させていただきます。研究者にとって研究アイデアは命ですので説明には限りが ありますが、内容について関心をもっていただき、一緒に取り組んで下さる方が現れる ことを願っています。

日本における自転車の使われ方の現状と問題点

まず最初にお断りしておきますが、私自身は自転車競技経験がないばかりでなく、 いわゆるロードバイクに乗ったことも2度しかありません。今回の特集記事の執 筆にあたって、複数のサイクリストの方々からメールをいただき、中には、実際 に私の研究室を訪れて下さった方もありますが、それらの方々の中には、私が競 技者でなく、自転車競技を支援する立場にもないことに、いささかガッカリされ た方もあるようです。

左にある索引欄の[研究内容]を先にご覧いただくと分かりますが、私は今まで自転車 を運動生理学的な研究のための負荷装置として使ってきました。
その一連の実験の中で、自転車に対してヒトが発揮できる最大パワーを測定したり、 様々な運動強度(心拍数)で自転車をこいでいる際のペダル張力を測ったりしてい るうちに、自転車運動はヒトの様々な身体運動の中でどのような特徴を持つのか、 競技目的で自転車を使った場合にどれだけの身体的負担(エネルギー、筋力)が人体に かかるのか、更に、一般人が日常生活において軽快車等で自転車走行している時の 運動強度は、その最大能力に対してどの程度のものなのか、などについて多くの データを持つに至りました。

とりあえず数字だけをあげますと、通常の軽快車を平地の多いところで走らせると、 若者男性で時速15-18キロ、女性では15キロ、中高齢者では12-15キロで走行して います。相対的な運動強度はもちろん体力によって異なりますが、自転車で市街地 走行を行う時には、呼吸循環機能の最大能力に対して20−40%程度、脚筋機能につ いては最大能力に対して15%程度しか必要としません。また、自転車では、自分の 体重をサドルに預けていますので、移動距離当りの必要エネルギーは、歩いて移動する 場合の30-50%程度に過ぎません。
体力科学的な視点から見た場合、残念ながら自転車使用におけるこのような値は、 ヒトがその身体機能を維持するには不十分と言わざるを得ません。

今回の特集を書くにあたって各競技連盟に問い合わせたところでは、自転車の競技 者人口はせいぜい8万人程度、トライアスロンでも30万人程度ということで、日本人 1.5人に1台と言われる自転車普及率を思うと寂しい限りです。逆に言えば、大半の 日本人が、自転車を単に楽でお金のかからない便利な足として使っていることになり、 身体能力を低下させる方向での“適応”を引き出す道具になっている可能性があり ます。大学で『運動による健康づくり』を教える立場にある私には、自転車普及が 生活習慣病の増加を助長しているようにさえ思えてしまいます。

更に近年では、電動アシスト機能のついた自転車も普及しており、某自転車メーカー の方の話では、その利用者の年齢性別のピークは60歳付近の男女と子育て中の主婦、 更に女子高生だそうです。

日本人は、“深く考えることなく何でも楽なものに飛びつく”傾向があるようです。 某自転車メーカーの方は、それを必要とする方々のためにアシスト機能が付いた自 転車を開発したと話されていましたが、必要でなくても“楽が出来るなら乗る” というのが日本人の実態のようです。自転車を専門とする“研究者”の一人として、 世の中に「自転車運動の功罪」をキッチリと示していくこと、更に、“自転車を使 って出来る身体にプラスになることは何か”を探求していくことが私の仕事では ないかなと最近では考えています。


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